最後の雨 4
「ただいま帰りました。」
「お帰り・・・・・・・あら?一人で帰って来たの?」
「スンジョ君は、今日は一緒に帰れないって ・・・・・・・・・着替えてきますね。」
スンジョがいないのに、妙に嬉しそうにスキップをして二階に上がって行くハニを見て、グミは何かいい事でもあったのだろうと、何かを聞くことも無くニコニコと見ていた。
スンジョ君ったら・・・・・・・学校でキス・・・・・・ふふふ・・・
廻りを気にして・・・・・・・
ハニは人目を気にして、そっとキスをしてくれたこを思い出していた。
スンジョ君が医者になるから、私も一緒に同じ職場で仕事をしたい。
そんな不純な理由で選んだ看護学科。
「どうせそこらのバカな女どもと同じで、彼氏を医学部か医師で見つける軽い気持ちの女と同じだろう。」
急にあの憎たらしい嫌味な男子学生の言葉を思い出した。
あながち間違いではないが、軽い気持ちで看護師になることを決めた訳ではない。
大好きなスンジョが医師になった時に、ずっと傍でその仕事を手伝って行きたいと言う純粋(?)な気持ちが一番だった。
「何よ!彼氏を見つける為に看護学科に来たわけじゃないわ。私はスンジョ君にお医者様になると言う夢を見つけてあげた、奥様なんだから!多少軽い気持ちはあるかもしれないけど、既婚者の私は他の女の子と目的は違うんだから!」
ハニはいつもの様に独り言を言いながら怒ったり笑ったりしていた。
___ドンッ!
「わっ!何よ!」
部屋のドアを何かがぶつかる様な大きな音がしたと振り返ると、可愛げのない中学生のウンジョがハニを小馬鹿にしたように見ていた。
「おやつだってよ。」
「ありがとう、色々と考え事をしていたから・・・・・・」
「いつもなら、家に帰るとすぐに、服も着替えないでおやつを食べるのに今日はどうしたんだよ、あの食い意地は。」
「く・・・・食い意地?酷い・・・・私だって、考え事位するわよ。」
日に日に憎まれ口を叩くウンジョのそれがハニへの愛情表現だと、ハニはちゃんとわかっているから、前ほどそんなに気にならなくなっていた。
「ハニちゃん、今日は疲れたでしょ?」
お母さんはその日の家族の体調を考えて、食事だけじゃなくておやつも工夫してくれている。
手作りの焼き菓子は、添加物も入っていないし甘過ぎず、卵をたくさん使ってくれたり、時には野菜が混ざっていたり、スンジョ君はこんなお母さんの思いを知っているのかなぁ。
甘い物が嫌いだって言っていたけど、お母さんの愛情溢れたお菓子を食べられる毎日がこんなに幸せだって気づいてくれるといいのに。
「疲れたって言うのか・・・・・社会学部とは違って、みんな自分の夢に向かって責任のある仕事に就くんだという意識が強くて、とてもいい励みになります。」
「怖いよなぁ・・・・馬鹿ハニが看護師になったら、出来るだけそこの病院とお付き合いしないようにしないと。」
「ウンジョ!」
憎まれ口を言っているウンジョ君の言う意味は判る。
そうならないように頑張れって言っているのだ。
「スンジョと一緒に帰ってこなかったのに、ハニちゃんったらなんだか嬉しそうな顔をしているわね。」
「ふふふふ・・・・・・ふふ・・・・・」
「いい事でもあったの?」
「ナイショです。」
学校でキスをしてくれたことなんて、お母さんに言ったことが判ったら、これから先、スンジョ君に学校でもうキスしてもらえなくなっちゃう。
振り向いてもらえなかったスンジョ君に結婚したいと言われて、同じ医療現場で働く夢を見つけることが出来たなんて、もうこれ以上幸せなことなんてないのかもしれない。
スンジョ君に嫌われないように、大好きなお母さんや優しいお父さんに、憎たらしいけど可愛いウンジョ君との生活が永遠に続いてくれるようにと、いつも私はそうなる事しか頭になかった。
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