思わぬ同居人 134
「あらぁ!あなた達、同じ飛行機に乗っていたでしょ?」
ハニは見覚えが無かったし、スンジョもアイマスクをしていて気が付かなかったが、気内によく聞こえた声と似ていた。
些細な事をヒステリックに誰かに話していたのは、この女だったのかとスンジョは思った。
「私たちの座席の二つ斜め前にいたわ。あなたの彼、すごくカッコいいわね。芸能人みたい。」
赤い口紅に長い爪に施された黒いマニュキア。
品のない話し方に、服装も女を意識するように身体の線がはっきりと分かる服装だった。
ハニは、スンジョに色目を使うこの女が気に入らなくて、この場から早く去りたくてスンジョの腕を掴んで、無視をするように通り過ぎた。
「好きじゃないわ、ああいう派手な人は。」
「お前は、オレに話しかける女はみんな嫌いだろ?」
「まぁ・・それはそうだけど、スンジョ君はああいう人が好きだった?」
少し拗ねたように言うハニが、オレの顔を見上げているのが判る。
ちょっとからかってみたい気もあるが、新婚旅行でいい思い出を作ってあげなければ、帰ってからは復学した医学部の勉強が追い付くためにハニを相手している暇も無くなる。
「オレが今まで他の女の子と付き合ったりした事がないのは、お前は知っていたじゃないか?オレが好きになったのはお前が初めてだ。」
「私が、初恋ってこと?」
「人に興味を持ったのが、お前が初めてだった・・・って事だよ。」
「どういう事?」
クスッと笑って、スンジョはドアを指差した。
「ここの部屋だよ。」
カードキーを差し込んでドアを開けると、そこは外の光が差し込んでとても明るい部屋だった。
キャリーバックをクローゼットルームに置いていると、本当にこれからこんな風にハニと夫婦として暮らして行くのだと思った。
ハニは緊張をしているのか、妙に落ち着かない様子で室内を見て回り、用も無く扉を開けてオレの近くに来ない様にしていた。
お前が緊張をしているのと同じように、オレも緊張をしているのを知っているのか?
思いもよらず、ラブレターを貰って速攻で振った女の子と同居するようになって、いつしか好きになり、何でも知っていると思っていたオレが、意外と知らない事の多さを知ったのは、お前がオレの傍にいてくれたから。
「どこに行くの?」
「時間が空いているから、外のベンチに座って本を読んでいるよ。」
「私も、隣に座ってもいい?」
オレは何も答えなかった。
オレの隣に座るのはハニだけしかいなかったから。
読むために本を持ってきたのではなくて、こんな風に二人だけで過ごす時間をどうしたらいいのか判らないと言ったら、お前はどう思うのだろう。
お前のその笑顔が、オレの幸せなのかもしれない。
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