思わぬ同居人 143
ハニをベッドの上に降ろすと、ハニはスンジョの目から顔を逸らして震えていた。
『大丈夫だ』と言ってやりたいが、スンジョ自身も初めての事に心臓はバクバクと言って体が震えていた。
酔ったハニを背負って家に帰ったこともあった。
自分の部屋で寝ている時にハニが忍び込んできたあの時は腕を引っ張り組み敷いて、息もかかるくらいに顔を近づけた事もある。
高校の卒業式後の謝恩会で、初めてハニと強引なキスをした。
バレンタインの雨の日に、当時独り暮らしをしていた部屋でハニを泊めた時は同じベッドで眠った。
ペンションでのバイト先に来た時、居眠りをしているハニにそっとキスをした。
いつもふざけて身体に触れた事はあっても、こんなにバクバクとしたことはなかった。
大切にしたい思い出だから、緊張をしているのかもしれない。
思い出を大切にしたいと思うよりも、ハニを今もこの先もずっと大切にしたい。
人との触れ合いを拒んでいた自分が、人を愛して守って行くなんて思ってもいなかった。
ハニはただの同居人ではない。
大切なオレの一部なのだ。
理由もなく嬉しくない思わぬ同居人から、思いもよらず大切な同居人になって、その大切な同居人がいなくてはならない大切な同居人になったのがいつなのか判らないし、判る必要が無いのかもしれない。
どちらから好きになったのかと言われれば、オレ達を見ていた人たちにしたらハニから好きになったのかもしれないが、もしかしたら生まれた時から好きだったのかもしれない。
父親同士が親友だと言うのは偶然かも知れないが、オレ達は引き寄せられるように近づいて来たのだろう。
こうして心から触れあっていても、それが自然の事の様に違和感も無くむしろ同化するように気持ちが一つになる。
ハニが好きだ、ハニだけが好きだ。
この先何年も過ごす間に色々なことがあるのかもしれないが、きっとオレ達なら乗り越えられるだろう。
こうして肌が触れあって心地良い眠りに付けるのが永遠に続くだろう。
新婚旅行から帰って来てからは、不思議と何事も無く意外なほどに平穏な毎日が続いていた。
ハニは学校から帰って来るとお袋と一緒にキッチンに立ったり、洗濯物を取り入れ畳んで片付けたり、何も変わらない生活だった。
変わったこと言えば、オレの腕の筋肉痛が慢性的になっている。
原因が何かと言えば、オレが眠る隣の場所にいる人物がダブルベッドの殆どを占領しているからだ。
最初に比べれば、大分大人しくなった寝ながらの運動を防ぐ対策をするのも、一人で寝ていた時と変わったことの一つなのかもしれない。
「ハニ、そろそろ起きろよ。遅刻するぞ。」
「う・・・ん・・・」
「具合が悪いのか?」
「なんだかだるくて・・・熱っぽい・・・」
「起きられるのなら起きろよ。無理なら学校を休めばいいけど・・・・お前は3限目からの授業だろ?オレは1限目からだから先に行くから。」
「う・・ん。」
「良くならなかったら、学校を休んで病院に行けよ。」
大したことじゃないだろうと思って、スンジョは特に気にすることなくハニを部屋に残し、朝食を摂る為にダイニングに降りて行った。
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