思わぬ同居人 144
午後の授業から、人の視線が気になった。
人から見られるのは小さな頃からあったが、それとは何か違う視線。
顔を近づけてヒソヒソと話しながら、『えーっ』と言う大きな声だけを出している女の子たち。
知らない男子学生が、スンジョの方をポンと叩きニヤついていた。
「意外に早かったな。」
その言葉に疑問はあったが、スンジョはそれは自分の結婚が早かった事を言っていると思っていた。
「ハニを大切にしてあげてね。」
「あ・・ぁ・・・・」
人に言われなくても、オレは出来る範囲でハニを大切にしているつもりだ。
話もした事のなくハニともオレとも接点のない人たちに、オレ達夫婦のことにいちいち言うのは間違いだろう。
何があったのか、この時のスンジョはまだ何も知らなかった。
医学部での研究や、医学部図書館でしか見ることの出来ない本があるから、最近は一緒に家に帰ることはなかったが、ハニから来た不思議なメールにも疑問はあったが、返信が欲しいとも書いていなければ返信をしなくても何も言わない。
今日も研究室に残ってやりたい事はあったが、午後から自分に関わる事で何か変わったような気がしていた。
「悪い、今日は研究室に行かないで帰るから。」
「やっぱりそうだろうと思っていたよ。」
「やっぱり?」
「その方がいいと思うよ、予定よりも早く進んでいるのだから、スンジョが帰っても教授の指示通りにやって行くよ。」
なんだろう。
この人も同じように、何か引っかかる言い方をする。
不思議な事は学校だけではなかった。
いつもガレージのシャッターを開けると、ハニが家から出て来るか部屋の窓から身を乗り出すようにして手を振るが、家の中からハニの声やグミやウンジョの声が聞こえてこないどころか妙に静かだ。
それだけではない。
ガレージにはまだ夕方前なのに、いつも遅い時間にしか返って来ないスチャンの車まで停まっていた。
「ただいま・・・・・」
玄関のドアが開くと同時に、行き成り複数のクラッカーが鳴った。
「おめでとう!ペク・スンジョ!!」
どうしてミナとジュリが、何かを盛り上げるようにしてそこにいるのか。
それも何が『おめでとう』なのか、さっぱりと判らない。
家の中の壁は派手に飾りつけが施され、スチャンは嬉しそうに笑っていた。
「良かったな・・・こんなに早く出来るとは思ってもみなかったよ。」
「こんなに早く出来る?」
全く訳が判らない。
「何があったんだ?」 ハニがミナ達に背中を押されて、スンジョの前に出て来た。
「どうかしたのか?」
モジモジと恥ずかしそうにしていたハニが、背伸びをしてスンジョに話した。
「赤ちゃんが出来たみたいなの・・・・・・」
「はっ!?」
身に覚えがないわけではないが、二人で話して大学を出てから子供のことは考えようと決めていたはずだ。
「冗談だろ?」
「冗談じゃなくて、お母さんがそう言ったから・・・」
「お袋がそう言ったから、妊娠したと言う事か?」
また、お袋が余計な事を言ったのか・・・・
「今ならまだ病院に間に合う。すぐに行くぞ。」
オレはハニの妊娠に疑問を持っていた。
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