最後の雨 10
勝手口から家の中に入って、そっと窓の傍に立って隠れていた場所を見ると、もう車もそこには無くてみんなは帰った後だった。
「良かった・・・・・私がスンジョ君の奥さんだと判ったら、きっとみんなにまた苛められるんだから・・・・・・・」;
窓から離れてクルッと向きを変えると、大きくて温かで柔らかな何かにぶつかった。
「きゃ!」
「大丈夫か?」
「スンジョ君!」
ここ数日スンジョの顔を間近で見ていなかったからなのか、ハニの目に涙がにじんだ。
ぶつかってスンジョの声を聞いてすぐに泣きだしたハニに、スンジョは驚いていた。
「会いたかった・・・・・会いたくって・・・・・・すごく寂しかったんだよ・・・・毎晩スンジョ君の帰りが遅くて・・・・・」
「ゴメン・・・もうひと段落ついたから、今夜からは一緒に夕食を食べられる・・・・悪い・・・」
そう言うとスンジョは自分に抱き付いているハニを、優しい目で見ながら身体を離した。
「なんだか目の前で夫婦になった二人を、こんな風に見るのは辛いかも・・・・・・・」
聞き慣れた声にハニはそちらを見ると、ヘラがニヤニヤと二人を見ながら笑っていた。
そうだった、さっきスンジョ君がヘラと家の中に入ったのを見たばかりだった。
「どうしてここにいるのよ、ユン・ヘラが!」
「ヘラが読みたい本をオレが持っていたから貸そうと思って。」
「とか言って、スンジョ君を誘惑するんじゃないでしょうね。」
「そうしたいけど、ハニのその目が怖いから遠慮しておくわ。本も借りたし、もう帰るわね。」
ヘラはスンジョから借りた本を持って、玄関に向かった。
「悪いな、送れなくて。」
「いいわよ、タクシーを呼んでくれたから。あまりあなたと一緒にいると、ハニに呪い殺されそうで怖いから。」
相変らず棘のある言い方をするヘラに、ハニは子供の様にベーッと舌を出した。
「ところで、さっきウンジョが帰って来て、お前が可笑しくなったと言っていたけど、何かあったのか?」
「ウンジョ君がそんなことを?」
二人そろって階段を上がり、部屋に入るとハニは遠慮なくスンジョに抱き付いた。
「おいおい、こんなに明るい時間からオレと何をしたいんだ?」
「ただこうしたいの・・・・・・スンジョ君と話せなかったし・・・・・・学校でスンジョ君と結婚していることを内緒にしているから。」
「内緒にしている?隠す必要なんてないだろう。ちゃんとオレ達は結婚しているんだから。」
「そうだけど・・・・・そうそう、私ねペク・スンジョペンクラブに入ったの。」
「また、お前は変なことに首を突っ込んだのか?」
「違う違う・・・・・・スンジョ君は看護学科でも人気があるから、 誰かに取られちゃうと嫌だったの。」
「バカだな・・・・オレはハニ以外に興味がないのに・・・・・・・・」
スンジョもこの何日がまともにハニと話をしていなかったから、こんなくだらない事でも話が出来ることが幸せだと思った。
「んっぅん!」
咳払いが聞こえてドアの方を見ると、ウンジョがムスッとした顔でこちらを睨んでいた。
その途端二人は顔を赤くしてパッと離れた。
「前にも言ったよね。 思春期の僕がいるんだから、見られて離れるくらいなら鍵を掛けてよね。ドアを開けたままそんな風にしていたら、どうしていいのか困るじゃないか。」
「ゴメンゴメン、ウンジョ何か用だった?」
「ママがおやつにしようって。」
スンジョはハニと結婚してから、こんな風にベタベタとされることが嫌だとは思わなくなっていた。
むしろハニの口から他の人話を聞くのが好きではなくなっていた。
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