最後の雨 11
「ママァ・・・・・僕、もう嫌だよ。中学は寮のある学校に移りたい。」
夕食時に、ウンジョが切実な声で突然言い出した。
スチャンも、グミももちろん、家族はいつも一緒と思っている人たちだから、全寮制の学校に入る事は考えていない。
全寮制は、富裕層の子息の多くが通っている。
ペク家は玩具メーカーでトップのハンダイだから、家柄に関しても問題はないし、金銭面でも困る家庭でもない。
ただ行きたいと言うだけではどの家庭の親でも納得いくはずがない。
「どうして?」
驚くでもなく反対するでもないグミの言い方に、ウンジョはそれがグミの一番怖いところだと思っている。
「どうしてって・・・・・・・」
チラッとスチャンの方を見るが、スチャンはグミには逆らわないし、グミの考えをいつも信用し尊重している。
スンジョが笑顔を見せることになったのは、グミがハニと結婚するように、いろいろ企てたからと言う実績があるから。
「理由が無かったらダメよ。理由があっても、パランは教育環境もいいし先生方も信用できるし、幼稚園から大学まである総合学園よ。パパの会社も多額の寄付をしているし、スンジョも幼稚園から大学までパランだし、ハニちゃんも高校からパラン・・・・・・転校はダメ。」
「学校が嫌じゃなくて・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・結婚したら、ハニとさ・・・・・ベタベタして・・・・・・」
スンジョは咳き込み、ハニは顔を赤くし、グミは目をキラリと輝かせた。
「いいじゃないの、ウンジョも好きな女の子が出来れば、ベタベタとしたくなるものよ・・・・さっ、ご飯を食べなさい。」
ウンジョの考えもわかるが、グミの考えもわかる。
スンジョはハニへの気持ちに気づいてから、自分の心のモヤモヤをどうしたら晴れるのかを知ったし、自分だけを見ているハニを傍から離したくなかった。
「ところでハニちゃん・・・・・・・・」
「はい・・」
グミはハニの看護学科への転科をあまり望んでいなかった。
結婚して大学を出たらすぐに孫の顔を見たいと思っていたから。
「看護学科はどう?辛くない?」
「楽しい・・・・というか、二年からの編入だから追いつくのが大変なだけです。」
「そう・・・・・大学を出て赤ちゃんでも出来れば、何も看護学科に転科してお仕事しなくても・・・・・」
スンジョはギロッと睨んだ。
「子供がどうのはお袋が口を出すことじゃないだろう。いつ子供を持つかなんて、オレ達の自由にさせてくれよ。結婚だって本当は大学を出てからのつもりだったんだ。」
スンジョはグミが子供の話を持ち出すたびに、このこと反論を言うがグミの方がさすがに上手だ。
「嫌なら式が決まっても、あなたの性格なら無視していたでしょ。本当は早く結婚したくて仕方がなかったから交際宣言もしないで結婚宣言をしたんじゃない?結婚したらウンジョが転校したいと思うほどにベタベタして・・・・・・」
このグミにスンジョが口で勝てるのはいったいいつになる事やら。
「で・・・・看護学科で意地悪をする人はいない?」
「いないと言うか・・・・・・いるんですよ!憎ったらしい人が!」
「ハニちゃんは可愛いから、その可愛さに嫉妬しているのよ!女の子はそう言うことが往々にしてあるから。」
「女の子じゃないんです。男の子なんですけど・・・・・考えただけで気分が悪くなる!いっつも怒ってばかりで、ハン・ギョルめ!」
スンジョはハニの言った男の名前がなぜか気になった。
ハニはフルネームで呼び捨てにしたことは、今までに一度もなかった。
ハン・ギョル
この名前を聞いただけで、無性に胸の奥から湧き上がるくらいにイラついた。
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