最後の雨 14

毎日のどの授業も、ハニにとっては予想外の失敗続きだった。

結局ハニだけが採血の練習が出来ず、次回に持ち越し。

注射はされるのも嫌だが、する方も嫌だった。

ハニには理由があったが、そんなことでは看護師になれないことも判っている。

「ハァーッ」

針の先を眺めて、自分の腕に当ててみる。

冷たい感触が、そのまま自分の心に不安な思いを更に大きくさせた。

「どうしたの。」

「ミンジュ・・・・・・」

「採血が出来なかったことが気になるの?」

「うん・・・・・・」

ミンジュは大きな体をかがめてハニの目をじっと見て来た。

黙っていればミンジュは普通にきれいな女の子に見える。

どうして看護師になりたいのだろう。

ミンジュだけじゃなくヘウンもヒスンも・・・・・ギョルもどうして看護師になりたいんだろう。

「それはね・・・・・・」

「えっ?」

ミンジュはニコッと笑って背筋を伸ばして座り直した。

「私はね・・・・・・こんなんでしょ?スーツを着て営業とかは出来ないし、力仕事は・・・・まぁ、そこいらにいる並の女の子よりはあるけど頼りない感じだし・・・・・何になろうかなって思っていた時に、看護師なら男性並みの腕力も使えるし、ナース服を着ていれば女の子扱いしてもらえそうだから看護師になる事にしたの。ヘウンが看護師になりたい理由は、ギョルが嫌っている「医者の彼を探すこと」だし、ヒスンが鳴りたい理由は何だろう・・・・・彼女はそのまま白衣の天使にピタリだから、看護師になりたい理由は知らないな。」

みんなそれぞれの思いがあって、看護師になりたいんだ。

「で、ギョルはね、お母さんが看護師だったんだって。お父さんがいなくてお母さんが女手で一人で彼をあそこまで育ててくれたから、同じ職業に就こうと思ったんだって。元々気難しい奴だけど、大学に入る直前にお母さんが亡くなってからは、私達みたいにキャーキャー騒いでいるとイライラするってよく怒っていた。」

「ギョルの事をよく知ってるのね。」

「私達幼馴染で、よくギョルとお医者さんごっこをしたの。ギョルの黒子(ほくろ)の位置も知っているし・・・・・・・・・・」

そこまでミンジュが話すと、何かに驚いたように立ち上がった。

「オレの黒子(ほくろ)の位置を知っているのが、こいつと何の関係があるんだよ。余計なことを言うな。」

強がった言い方でも、ミンジュとは幼馴染だからなのか、普段ハニと話す時とは違って壁がないことに、ハニはまだ自分を一緒に学ぶ仲間として受け入れてもれえないと思った。

「そうそう、次の授業まで時間が空いたから、医学部のペク・スンジョを見に行かない?」

嫌とは言えなかった。

次の教室に行くには医学部の、多分スンジョが取っている授業の教室の前を通らないといけない。

会いたい反面、みんなに結婚していることとスンジョの奥さんは自分だと言うことを知られるのが怖かった。

スンジョに片想いしている時は、振り向いてもらえないハニを小馬鹿にしている発言をよく聞いた。

「また、オ・ハニがペク・スンジョに怒られている」

そう言われて小馬鹿にされているのが判っていたが、結婚してからは妬みが怖いほど感じられた。

思った通り、スンジョのいる教室の前は、彼を見ようと沢山の看護学生や女子医学生が教室の中の様子を伺っていた。

その中には知っている顔の人もチラチラ。

咄嗟にハニは顔を隠して背の高いミンジュとギョルの間に隠れた。

「キャー、ペク・スンジョが出て来るわ。」

まるでアイドルの追っかけみたいにスンジョが動くと黄色い声が上がる。

一瞬スンジョと目が合ったが、ハニは隣の人物のシャツを引っ張り、顔を隠した。

「何やってんだよ。そんなに引っ張ったら服が破れるだろう!」

ミンジュの優しい声ではない、少し怒った感じのする話し方。

「ギョル!」

「離せよ!!」

「ゴメン・・・・・・ミンジュと間違えた・・・・・・・」

ミンジュはヘウンと一緒にスンジョに少しでも近い所に行こうと、その場から離れていた。

スンジョがハニとギョルがそうしている様子をチラッと見て、表情も変えないでいたことをハニは知らない。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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