最後の雨 15
「患者さんは、病気になっている時は不安で心も弱っています。常に笑顔を見せてあげてください。患者さんにしたら新人の看護師に頼むよりもベテラン看護師に頼むことの方が、不安な状況にあっても安心感があります。
また、ベテランだから大丈夫というものでもありません。年数が経てば自分の能力や技術に過信してしまいます。初心に帰って看護師としての心得や看護技術を見直すのも必要です。」
講師の話を一言も聞き洩らさないように必死に頭に入れているが、どういう訳かいつも隣に座るのがハン・ギョルで緊張と不安で身体に力が入っている。
実技演習ではない講義を、居眠りをすることも無く、静かにいつも先生の話に集中している。
その姿は、スンジョとどこか似ているようでもあった。
「何だよ。オレの顔を見て何が覚えられるんだよ。」
気が付けば、授業は終わっていた。
「ゴ・・・・ゴメン・・・・」
「お前・・・・・採血の練習しないのかよ。」
「あっ・・・・そうだった。明日はやらないと点数がもらえないんだった。あ~ぁどうしよう、誰か練習に付き合ってくれる人は・・・・・・・・」
その言葉を聞くと、いつも一緒のミンジュやヘウンとヒスンは、何も言わないでサッサと机の上の本を片付け始めた。
「ヘウン・・・・・練習に付き合ってくれる?」
「ゴメン!!今から合コンに行かないと。じゃあね、ミンジュに頼んだら?」
「や・・・やだわよ。練習なら今度の授業でもギョルだから、ギョルに頼めばいいじゃない。私も人に会うから。」
逃げるようにしてミンジュとヘウンとヒスンは、教室を出て行った。
「何だよ・・・・・何を見てんだよ。」
「お願い・・・・・・」
本当はギョルには頼みづらかった。
頼みづらかったけど、編入してきていつも話をするのは、ミンジュやヘウンにヒスンとこのギョルだけ。
採血のテストをクリアしないと、減点になってしまう。
減点になれば、看護師への道が段々と遠のく。
「判ったよ、付き合ってやるよ」
「ありがとう!ありがとう・・・・・・・」
ハニはギョルと採血の練習をするために、採血の練習に使った所に行くために二人並んで教室を出て行った。
「おい、スンジョ。あれって、お前の奥さんじゃないか。」
「そうみたいだな。」
「そうみたいって・・・・・おい・・・・おい待てよ。仲良く歩いているのを見て、お前って嫉妬もしないのか?新婚なのにさぁ・・・・・・」
「別に誰と歩いて、誰と話をしても関係ないさ。」
「凄い自信というか・・・・・寛大というか・・・・・おい、待ってくれよ。」
このスンジョと一緒にいた人物は、スンジョの今の思いなど全く気が付かなかった。
そして、この時のスンジョは、ハニは自分以外の男を好きになれないと判っていても、心を許したような表情で歩いているハニの顔を見て、心の奥から湧き上がるものにイラついていた。
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