最後の雨 16
最近は授業の関係で、スンジョとハニは一緒に帰宅することが出来なかった。
夕方から雨が降り出し、スンジョが家に着くころには本格的な降りになっていた。
ガレージのシャッターを開けると、いつもなら玄関のドアがすぐに開き、ハニがポーチに姿を見せていたが、今日は雨の音でシャッターが開いたことに気が付かなかった。
少し寂しい気持ちがした。
寂しい?
これが寂しいと言う感情なのか?
ハニと出会ってから毎日が新発見の連続だった。
もう何年も一緒の家にいるのだから、新しい発見なんてもうないと思ってた。
「ただいま」
玄関のドアを開けても、ハニはお袋との話に夢中でオレに走り寄って来ない。
「まぁ、そうなの。色々な子がいるのね。それでその子とこの先上手くやれそうなの?」
ハニはお袋と看護学科の話で夢中になっていたのか。
「あっ!お兄ちゃん、お帰り!」
ウンジョの声にようやくオレが帰って来たことに気が付いたハニとお袋。
「オレが帰って来たのも気が付かないで話に夢中だったんだな。」
「まっ!お兄ちゃんったら焼きもちを妬いているわよ。」
「焼きもちなんかオレが妬くかよ。」
「ゴメンね・・・・気が付かなかった・・・あれ?雨が降っていたの?」
オレの服がかなり濡れていることに、ハニは驚いていた。
まぁ元々話に夢中になると、外の天気が急に悪くなってもハニは気が付かないことがよく有った。
「着替えを用意しないと・・・・・・お母さん、すみません・・・・お話はまた後で・・・・・・スンジョ君、部屋に行って着替えを・・・・・」
勢いよく立ちあがってハニは二階の寝室に上がって行った。
その後ろに付いて階段に向かうオレに、お袋がからかうように言って来た。
「温まってらっしゃい。」
ニヤニヤと笑うお袋を一睨みして、オレは階段を上がった。
確かに最近はハニとお袋が期待しているようなことはしていないが、そこまでお袋に管理されたくない。
部屋に入るとハニがバスタオルと着替えをベッドの上に並べて待っていた。
「お風呂に入ってくる?入るならすぐにお湯を入れてくるから。」
「そこまでは濡れていないから大丈夫だ。」
手渡されたバスタオルで頭を拭いて、ハニの楽しそうにしている顔を眺めた。
「看護学科は楽しそうなんだな。」
「楽しいと言うのか・・・・・・・すっごく嫌味な奴がいてね、お母さんに話を聞いてもらっていたの。」
「嫌味な奴って・・・・・オレで慣れていると思ったら、それ以上の奴がいたんだな。」
「スンジョ君は嫌味じゃないよ。私の為に言ってくれているんだから。」
ハニはオレ以外には特別な感情など持たないから、オレが言ったことは何でも良い方に考える。
嬉しいことは嬉しいが、ハニに嫌味を言うのが、『ヤツ』と言っていることが気になる。
「男か?ハニに嫌味を言う人間は。」
「そうなの。ハン・ギョルって言う憎ったらしい人なの。」
その名前を聞いただけで、意味も無くイライラとした。
オレはその人物と話をしたことがないのに、理由も無く気に入らないと思った。
「下に行くぞ。」
ちょっと言い方がきつかったが。
ハニは気が付いていないのか、いつも通りの顔でオレの腕にしがみついて来た。
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