声を出して 48
提出すべき課題は、特例で遅れての提出を許可してもらい、何とか結婚式までにはすべて終らせることが出来たハニは、生れて初めての達成感を味わっていた。
秋というのに、今日は陽射しが柔らかく温かかった。
銀杏の葉が黄金色ではなく、若草色の葉で植え込みに花が咲いていたら、今が春だと思い込みそうな日だった。
「あ~、これで満足!のんびりと新婚旅行に行く事が出来る。」
銀杏の樹の下のベンチを、一人で占領をして大きく伸びをした。
今日はスンジョとは一緒には帰られない。
スンジョはスンジョで、休んでいる間に復学したばかりの医学部の勉強が遅れてしまわないようにと、予定されている研究を予測して進めて行くと言っていた。
「スンジョ君はすごいな・・・・先生が、何をしたいのか判っているみたいで・・・私なんて、先生が言っている事さえよくわからない時があるのに・・・・」
どんなに努力をしても、記憶力がよくなる事がない自分に時々情けなく思う事もあった。
「ハニ~!」
遠くから自分を呼ぶ声に振り向くと、ミナとジュリが手を振って走って来た。
「ミナにジュリ!」
大きなカバンを持って二人が息を切らしてハニに近づくと、独りで占領していたベンチを三人が腰掛ける事が出来るように少し横にずれた。
「ゴメンね、荷物が多くなっちゃって・・・」
「なんのなんの・・・」
「そうだよ。花嫁の介添人なんて、若いうちにしか出来ないし人生でそう何度も出来る訳じゃないし・・・・」
高校で出会ってからの付き合いでも、ハニの考えている事は二人にはよく伝わっていた。
片想いで、ただ何かの陰からスンジョを見ているだけだったハニが、その想いが通じて結婚をする事になった時は、自分の事のように喜んでくれていた。
「いよいよ、明日が結婚式本番だね。あっと言う間の二週間・・・慌ただしかったね。」
「うん・・・二週間の間に喧嘩もしたし・・・・・」
「でも、その喧嘩で益々ペク・スンジョが好きになったと言ったのは誰だった?」
「ミナ・・・・・」
「同い年なのに、とても大人に見えて、この人の妻になるなんて私は死んでもいいくらいに幸せだって・・・・だぁれが言ったっけ?」
「もぅ・・・・ジュリったら・・・・話したい事は沢山あるけど、おばさんが待っているから行こうか?」
「おばさん?『お義母さん』と、もう言ってもいいんじゃない。」
三人のにぎやかな笑い声が、秋の夕暮れの大学構内を明るくさせていた。
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