最後の雨 20
シャワーを浴びて、髪を乾かして寝室に戻ると、ハニはすでに眠っていた。
視野の端に見えるハニの机の上、そこに置かれている白い紙に目が行った。
≪ ______ スンジョ君、ごめんなさい。私、何かいけないことをしてスンジョ君を怒らせたんだよね。結婚しているから、いつもみんなからの誘いを断って、無理をして早く帰って来てくれていたんだよね。時々は医学部の人たちと飲んでもいいけど、飲み過ぎないでね。スンジョ君は私と違うから、そんなことはないけど、スンジョ君に何かあったら、私はどうしていいのか判らなくなっちゃう。私の事を嫌いにならないでね。
おやすみ・・・・・・≫
読み終えると、そのメモの横に置かれている紙に目が行った。
ハニは看護学科で勉強をしているのだから仕方がないと思っていても、そのメモに書かれていることを読むと、どうしてだろうか無償に抑えられない感情が湧き上がって来た。
電気が点いていないと眠れないと言っていたハニが、電気を消して眠るのはオレに気を使ってなのだろう。
ハニの事が好きだから嫌いになれない、嫌いになるはずないだろう。
オレが初めて他人に興味を持ったのがお前で、そのお前をどうして嫌いになると言うんだ?
お前以外の誰も好きになれないし、お前が傍にいないと本当の自分になって笑ったり怒ったりが出来ないことを知っているだろう?
他の奴みたいに簡単にハニに「愛している」「好きだ」と言えるのなら、何度でも言えるのに、いつもお前の口から言わせてばかりだ。
お前の笑顔がどんなにオレの心に安らぎを与えてくれているのか、お前はきっと知らないだろう。
その笑顔が他の奴にも向けていると思うと、気分がすごく悪くなる。
ジュングと親しげに話して、オレの知らないお前をアイツが知っているのも面白くなかった。
ギョンス先輩と付き合っている噂が出た時と、今のオレの心の奥に同じものが芽生えているけどそれが何なのかわからない。
ギテ先輩と、見せつけるようにデートをしていた時も、お袋の差し金だと判っていたけど並んで歩いているのを思うと、あの時はバイトを抜け出してもお前の腕を掴んで連れて来たかった。
スンジョはハニの横に並んでベッドの中に入ると、いつもそうしているようにハニを自分の胸に抱いた。
クルッと軽く向きが変わったが、目をギュッと不自然なほどにしっかりと瞑っているが、きっと起きているからなのだろうと思っていた。
温かで柔らかなハニをこうして抱くと、安心して眠ることがいつもは出来たのに、今日はアルコールを飲んでいるのに眠りにつくことが出来ない。
最初は聞こえなかったハニの寝息は、スンジョが抱きしめるとすぐにスヤスヤと寝息が聞こえて来た。
ハニもこの体制が落ち着いて眠れるのだろう。
「お休み、ハニ・・・・・」
眠れないまま、スンジョは朝になるとベッドから起き上がり、少しアルコールが残っているのか頭が重かった。
シャワーを浴びて頭を洗ってもまだ頭がすっきりとしなかった。
そのまま部屋に戻らず、リビングのソファーに腰かけた。
こんなにイライラとした日々を過ごすのはいつ以来だろう。
そうか・・・・・・ハニがこの家に初めて来た時にも、こんな風にイライラしていた。
自分の生活リズムを狂わされて、落ち着いていることが出来なかった。
それが、初めて自分とは違うジャンルの人間に興味を持ち始めたことだと気が付いたのは、もっと後だった。
あの時気づかなければ、今の幸せはなかった。
「お兄ちゃん、おはよう。今日は起きるのが随分と早いわね。」
「ああ・・・・飲み過ぎて眠れなかったから。それに今日は早めに学校に行かないといけないから。」
「すぐに朝食を用意するわね。」
まだ朝早い6時前なのに、グミは快くスンジョの朝食の用意を始めた。
0コメント