最後の雨 21
いつもの癖でハニは手探りで、隣で寝ているスンジョの身体を探した。
どこをどう触っても、スンジョの身体に触れるどころか、シーツの感触しかないことにハニは慌てて飛び起きた。
寝すぎたと思って急いで枕元に置いてある時計を取るが、デジタルの表示はまだ7時。
一瞬寝坊をしたのかと思って大きくため息を吐いたが、いつもはスンジョが先に起きると起こしてくれていた。
「あーよかった。寝過ごしたかと思っちゃった。」
それでももう起きなければいけない時間だ。
急いで着替えて洗面所で顔を洗い、また部屋に戻って化粧をして髪を整えた。
隣の机の上を見ると、いつも置いてあるスンジョのカバンがなかった。
「凄いな、スンジョ君は・・・・・昨夜の飲んで来たのにもう起きていたんだ。寝たのも知らなかった私は、なんだか恥ずかしいな。」
ハニにしたら、スンジョは完璧で見習わなければいけない人だ。
見習って出来るものではないが、時々完璧に出来るスンジョが自分に重く感じていた。
「スンジョ君もギョルみたいに、もっと怒ってくれればいいのに。怒っているのか怒っていないのか、私はバカだから判らない。」
部屋の中はアルコールの匂いさえ漂っていない。
きっとスンジョが朝早くに起きて、窓を解放して空気を入れ替えたのだろう。
飲み過ぎても、その形跡さえも消してしまう。
いくら好きな人でも、ここまで完璧にしてしまうと、スンジョが気を休めるのはいつなのかと考えてしまう。
身支度を整えると、カバンと上着を持ってハニはダイニングに降りて行った。
「お母さん、おはようございます。」
「おはよう、ハニちゃん。すぐに朝食の用意をするから座っていて。」
学校に行くギリギリまで眠っていて、いつもグミに朝食まで用意して貰って申し訳なくハニは思っている。
いつかは必ず早く起きて自分で用意します、いつもそう言っているがなかなか実行に移せない。
ダイニングとリビングを見回すが、ダイニングテーブルにもスンジョは着いていない。
玄関の方を見てもどこを見てもスンジョの姿はない。
「お兄ちゃんならいないわよ。なんだか早くいかないといけないみたいで、もう出掛けたわよ。ハニちゃん知らなかった?」
「知らなかった・・・・・・・」
「バカのオ・ハニに愛想を尽かしたんだ。」
「これ!お義姉さんと言いなさい。」
ウンジョは頭をグミにボコッと叩かれて、顔をしかめていた。
きっとスンジョは予定が決まった時に言っていたのだろう、ただ自分が忘れっぽかったのだとハニは思った。
ハニは、ここ数日スンジョが何か自分に怒っていることは判っていたが、それは何が原因なのかは知らない。
「最近のスンジョはどうしたのかしらね。元々難しい顔をする子だったけど、何を考えているのか判らないわ。グループで研究をしているとか言って、スンジョは既婚者なんだからある程度の所で早く家に帰ってこればいいのに。大学の授業で疲れているハニちゃんが毎晩遅くまで待っていてくれているのにね。奥さんを大切にしない夫は最低よ!」
「そんな・・・ お母さん、私は気にしていませんから。医学部の勉強は大変ですから。」
看護学科の勉強でも大変なのに、スンジョは医学部。
いくら天才とはいえ、そんなに簡単に出来る勉強でもない。
家に帰って来るのをいつも待っているが、知らない間に眠ってしまっている時もある。
急いで食事をしてシャワーに入って眠るのではなく、遅い時間に帰って来ても、パソコンで何かを調べていたり難しい本を読んでいることも知っている。
自分の我儘で早く家に帰って来て欲しいとは思っていても言い出せない。
ずっと好きで憧れていたスンジョ君が私と結婚してくれたのだから、忙しくて家に帰って来るのが遅くても何も文句は言えない。
私がスンジョ君にお医者様になって欲しいと願っているのだから。
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