最後の雨 22
「オ・ハニさん、あなただけですよ。血圧測定と採血のテストがクリアしていないのは。」
先生に呆れられたいい方で説教をされているのを、教室のあちらこちらからクスクスと笑う声が聞こえている。
「はい・・・・・・すみません・・・・・・・」
「あなただけ特別に許可を貰っているので、練習キットを家に持ち帰って自分の腕で練習をして来なさい。」
「じ・・・・・自分の腕で・・・・ですか?」
「そうですよ。ご両親でもいいですし、あぁ・・・確かオ・ハニさんは結こ・・・・・・」
「ケッコ・・・結構です!自分の腕でやれますから、自分の腕で練習をしますからキットを貸してください。」
看護学科に来てから、クラスの人たちと一部だけは親しくなったけど、慌ただしく一週間が過ぎている。
やっと仲良くしている仲間たちに、プライベートな事はまだ話していないから、結婚していることを知られてしまっては、この先仲間たちとスンジョとの事でぎこちなくなってしまうとハニは思っている。
先生が結婚と言った言葉をうまく遮ったことが他の学生たちに見つかっていないかドキドキして、席に付く時に教室の中を見廻してクラスの様子を伺った。
みんな次の単元に進むためにテキストを広げて、すでに新しい事を覚え始めていた。
だから私が結婚していると先生が途中まで話をしたことを気にしている人はいない。
休憩時間も注射器の先を眺めては、出てくるため息が大きくなっている。
「ねぇ・・・・・・・」
鈍感なハニでも、いつもと違う声のトーンで話し掛けて来たヘウンの様子が気になった。
ヘウンの視線の先を辿ると、ハニの左手の薬指を見て、笑顔のない無表情な目を離していなかった。
「ハニって・・・・・結婚しているの?」
ハニの指から視線を顔に移して、今度は何かを探るように見つめた。
「えっ!は・・・・・・え・・・・」
「何よ・・・どうしてそんなにドモルのよ。」
「け・け・け・け・・・健康リングよ!良く結婚指輪と間違われるの。」
健康リングと結婚指輪の区別ぐらい誰でも見分けられることは、この時のハニには思い浮かばなかった。
「フゥ~ン・・・・まっ・・いいけどね。でさ・・・ハニ的には採血の練習はギョルとやるんでしょ?」
恐る恐るハニは横に座っているギョルの方を見た。
当然、ハニは実際に血を採る人の腕で練習をしたい。
「はぁ?!オレ?本番一度だけにしてくれよ。」
「お願い・・・・絶対に心配しないように、練習させて・・・・・・」
ギョルはハニのお願いという顔に一瞬心がグラッと揺らいだ。
大騒ぎをしている看護学科の教室の前を、医学部の学生が通っていた。
「賑やかだな、看護学科は。」
「本当だ、なんだか知らないけどさ、一人の学生が採血試験がクリア出来ていないらしい。」
それが誰かはスンジョには判る。
騒いでいる看護学生の中から聞こえるハニの声だけを、スンジョは聞き分けていた。
4~6人くらいの人の中に見えるハニは、またあの背の高い男子学生と傍から見ればじゃれ合っているように見える。
「あれ?スンジョの奥さんじゃないか?・・おい・・・・・・待ってくれよ、スンジョ。」
スンジョはその場所から逃げる様にして、一緒に歩いていた仲間から抜け出して先を急いだ。
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