最後の雨 30
「皆にバレちゃったね。」
「隠す必要なんてないだろう、ちゃんと結婚して籍も入っているんだから。」
「うん・・そうだけど。スンジョ君のファンって、看護学科にも沢山いるんだよ。慣れないんだもの・・・・・あんな人がスンジョ君の奥さんだなんて信じられないって言う陰口に・・・・・」
いまだにハニはそんな下らない陰口を気にしているのか。
「気にするなよ。」
「だって・・・・皆、私なんてすぐに飽きられて捨てられるだとか、スンジョ君が、しつこく私が追い掛け回したから根負けしたとか・・・・・」
薬を塗り終えて、ガーゼを当ててテープで留める。
テープを切る時に、痛いのか小さな声を出したハニの顔を見上げた。
久しぶりに見たハニの顔は、看護学科の勉強が大変なのか顔色が良くなかった。
オレが見ているのに気が付いたのか、ハニは子供の様な顔でオレに笑いかけた。
「ほら、これはお前が持ってろ。」
「スンジョ君が塗ってくれたから、昨日よりも痛くなくなったよ。さすがに天才だね。」
そんなただの火傷の塗り薬でも、オレから受け取ると大切な物を扱うように大事そうに持ち替えた。
たかが薬を塗っただけでも、天才だと言うハニはオレを裏切るはずがないと思っているが・・・・・・
「人にどんな陰口を言われても気にするな。ペク・スンジョがオ・ハニを選んだのだから。オレにはお前しかいない。もっと自分に自信を持てよ。」
「うふっ!判った!もう戻るね。採血の試験は、今日はなんだかパスしそうな気がするの。頑張るからね。」
「あぁ、頑張ってこい。」
ハニの肩に手を乗せて、抱こうとした時にこちらに向けている視線が気になった。
看護学科の、ハニと一緒に行動している連中がにやにやと笑いながらこちらを伺っていた。
その中で一人、オレを睨みつけるようにしている男がいた。
ハン・ギョル・・・・・
アイツがハニの採血の試験での相手か。
理由は判らないが、アイツは気に入らない。
オレに手を振って看護学科の友人の所まで走って行くハニを見送って、医学部の教室に戻るためにクルッと向きを変えた。
変えた背中に伝わる、ハン・ギョルのオレに敵意でもあるのか挑むような視線。
「やっぱり結婚していたんだハニ。」
「左の薬指に指輪があったから聞いたのに、どうして結婚指輪だって言わなかったのよ。」
「それは・・・・・・・スンジョ君のファンが看護学科にも多くて、判るとまた陰口を言われるのかと思うと。」
背中をミンジュにバシッと叩かれると、そこは元が男だからなのか力が強かった。
「私達は言わないわよ。むしろ、ハニが捨てられたら、私たちにもチャンスが訪れるって思うだけだから。」
「えーっ、そんなぁ。」
「冗談、冗談。ハニ、あんただからきっとペク・スンジョが選んだって判るような気がする。」
そんな風に言ってくれる人は看護学科のこのメンバーと高校からの友人のチョン・ジュリとトッコ・ミナだけ。
「サッ、行こうか教室に。」
結婚していることがバレタのに、今までどおりにハニに接してくれた。
教室の中にいる他の人たちも、何も気にしないでそれまでと変わらない態度で話しかけてくれた。
今までの人たちと違う、同じ看護を目指す仲間と、これからも上手くやっていけそうな気がした。
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