最後の雨 32
急いで帰らないと・・・・・・
採血の試験が追追追試験でようやく合格して、今まで迷惑をかけていたミンジュやヘウンとヒスン、そしてペアのギョルにお詫びとして、医学部との合コンを頼まれた。
スンジョ目当てだとは分かっているし、合コンにスンジョが参加しないこともハニには判っていた。
テニス部の仲間との飲み会も、ほとんどギョンス先輩に半分何やら脅迫されての参加で、始まりから最後までいたことはなかった。
ハニは灯りの点いているリビングを見上げてため息を吐いては俯き、また見上げるを何度か繰り返していた。
「ハァー、言いにくいなぁ・・・最近、遅くまで研究室に残っていて疲れているみたいだし、合コンなんてスンジョ君に頼んでもセッティングしても来てくれないだろうし・・・・・お詫びだなんて言って、医学部の人との出会いを目的だし・・・・・・・・ハァー」
「家に入らないのか?パパは家の中に入りたいのだけどね。」
「あっ!パパ、今日は帰りが早いね。」
「何を寝ぼけているんだよ、バァ~カ、声を聞いて判らないのか?家に入らないのか?」
「なぁ~ンだ、ウンジョ君か・・・ウンジョ君、今帰りなの?」
最近ウンジョ君は段々スンジョ君と似て来る。
声はまだ声変りをしていないから、あの小憎たらしい感はあるけど、ほんの一瞬の色々な細かい仕草が似て来た。
「ママに頼まれた買い物だよ。お前が早く家に帰って来ないからいけないんだぞ。この僕がスーパーに足りない食材を買いに行くなんてさ。お兄ちゃんが帰ってくる前に早く家に帰るのが妻の仕事だ。」
早く家に帰りたくても帰られない事情があったのに。
ウンジョ君は、いい子だと思うとすぐに憎たらしい子に戻ってしまう。
「スンジョ君、もう家に帰って来ているんだ。」
「帰っているよ。久しぶりに早く家に帰って来たから、僕の宿題を見てもらうからな。お前は、自分の事は自分でやれよ。」
何が自分の事は自分でやれよ!よ。
ハニはスンジョが家に帰って来たことを知って、さっきまで気が重かったことを忘れた様に急いで家の中に入って行った。
「ただいま、スンジョ君が帰って来ているんですよね。お母さん急いでお手伝いしますから待っていてくださいね。」
「ハニちゃんお帰り、いいわよぉ~、お兄ちゃんと部屋で仲良くして来ても・・・・・・・・まっ!よっぽどスンジョの帰宅が早いのが嬉しいみたいね。私の声なんて聞こえていないみたい。」
いつもは帰宅をすると、グミとユックリ挨拶をしてから二階に上がっていたが、今日は一気に話をしてグミの方を見もしないで二階に上がって行ってしまった。
「スンジョ君、お帰り・・・・・あのね、採血の試験受かったよ。」
「よかったな。」
たった一言でもハニは嬉しかったが、口数が多い方ではないから、いつもと同じ一言でも、どうしてなのか今日は冷たく感じた。
「うん・・・ギョルには迷惑を掛けちゃった・・・・・何度も針を刺して痛い目に遭わせて。でね・・・・お前は家に練習相手がいるのだからってね・・・スンジョ君の腕でやればよかったのにぃ・・・・なんて言われちゃったけど・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「お詫びにと、他の人たちって言ってもミンジュ達なんだけど、医学部の人と合コン?を頼まれて・・・・・・」
「・・・・・・」
本を読んでいるからなのか、一度も振り向いてくれない。
いつもなら私が帰ってくると振り向いて、笑顔で迎えてくれるのに。
「ミンジュ達の目的は、スンジョ君なんだけど・・・・・スンジョ君は、合コンなんて参加しないものね。」
「しない。」
聞こえていたんだ・・・・きっと私の話を黙って聞いていただけなんだよね。
「一度だけだから、私の為だと思って合コンに付き合ってくれない?」
「断る。」
ハニは怖くなって来た。
スンジョの感情の読めない言い方は初めてではないが、それとは違う何かがある事に、この場の空気さえも冷たく感じた。
「そう・・・・仕方がないね。明日、無理だって言うね。じゃぁ・・・お母さんのお手伝いして来ます。」
「・・・・・・・・」
ハニは持っていたカバンを置き、上着をハンガーにかけて部屋を出た。
訳も判らない最近のスンジョの気の変わりに、気が付くと頬に一滴の涙が流れた。
「笑わないと・・・・お母さんが心配しちゃう・・・・・」
パンパンと頬を叩いて、口角をギュッと上げて笑顔を作り階段を下りた。
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