最後の雨 34
ハニの涙は、傷一つない真珠の様に綺麗だ。
それが今のオレには、割れたガラスの破片のように突き刺さる。
「何だよ、そんなことくらいで涙を流して。イライラするから、オレの前で泣くな!」
「お兄ちゃん、何なのその態度は!自分の妻にそんな口を利くほど立派なの?」
「お母さん、いいんです。スンジョ君が、勉強で疲れているのに意味もなく泣いているから。」
違う
ハニは何も悪くはない。
オレの胸の奥の部分で、自分を擁護している気持ちが、オレの気持ちを知らないハニを見てイライラさせているんだ。
「泣かないで、早く食べろよ。」
当然のように、家族の団欒の夕食は気まずいものになった。
ギドンがいれば、自分の娘が泣いているのを見れば、スンジョのそのハニに対する態度に不満も出るだろう。
父スチャンがいたら、きっと大切な親友の娘を嫁にしたから、自分の息子であるスンジョを戒める。
グミはスンジョの持っていた茶碗と、おかずの乗っている皿ををサッと下げた。
「何だよ。」
「夫は妻を慈しむものでしょ?結婚式で沢山の人の前で誓ったじゃないの!」
言い返せない。
「お母さん・・・・・私は大丈夫ですから、スンジョ君に食事を・・・・・・」
「いいえ!ここ最近のスンジョハニちゃんに対する態度に、言いたい事があるのよ。」
「言えば・・・」
ウンジョはこの食卓の空気が異様に思えたのか、急いで食事を口に入れて逃げるようにして二階に上がって行った。
「研究だとか言って泊まり込むし、飲んで帰って来るし、ハニちゃんに冷たいじゃない。」
「お母さん、いいんです。スンジョ君は忙しいだけですから。」
「ハニちゃん、夫を甘やかすものじゃないわ・・・・と、子供を厳しく躾けなかった私も悪いのだけど・・・・・今までは、どんなに遅くても家に帰って来たでしょう。飲んで帰って来るのもいいけど、日付が変わってから?まだ学生の身分で、生意気だと思わないの?」
「学生だからって付き合いもあるんだよ。グループで研究するのに、今まで他の連中に任せて帰って来たから、詰めの所では共同でまとめないといけない事もあるから、付き合って親交を深めて行かないとまとまりが悪くなる。」
「いいように言うのね。誰があなたの夢を見つけてくれたのよ。冷めた目で世間を見ていたあなたの心を、誰が温めてくれたのよ。ハニちゃんでしょう!ハニちゃんがいなかったら、今のあなたはいなかったのよ。こんなにあなた一筋で、ずっと待っていてくれたじゃない。ハニちゃんに謝りなさい!」
ここ数日のスンジョの態度に対する思いを押さえきれなくなったグミの怒りは、それこそ抑えが効かなかった。
「お母さん・・・・・・本当に、私はいいですから・・・・・・」
「ハニ・・・悪かった。気を付ける。」
一応スンジョは、グミの話しから逃げたくて形だけで謝った。
グミはハニを溺愛しているが、スンジョの母である。
スンジョの形だけの謝罪を許すことが出来ないが、このままスンジョと言い争えばハニがもっと傷付くことは判っていた。
「気に入る謝り方ではないけど、ハニちゃんに免じて今日はここまでにするわ。でも、スンジョは夕食抜きよ。」
スンジョの頑固な性格は、グミのこの頑固さと似ているのかもしれない。
夕食を下げられても食卓にいることもなく、スンジョは箸をおいて席を立った。
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