最後の雨 35
気まずい雰囲気の夕食は終わった。
美味しいはずの食事は、味も無く食感も悪くて飲み込むことも困難だった。
息子と可愛い嫁の為に争ったグミ自身、幸せだと思っていた息子夫婦の関係に無口になり元気がなかった。
「お母さん、ごめんなさい。」
「いいのよ、ハニちゃんが悪いのじゃないから。スンジョの最近の態度に抑えられなくなって。何が気に入らないのか、さっぱりわからないわ・・・・親子なのに、息子の考えが判らなくて悲しいわ。」
テーブルの上に肘を置いて、顔を手で覆って泣いていた。
「お母さん、今日は私が片付けはやりますから、部屋に行って休んでください。」
「本当・・・・パパが帰って来るまで部屋で休んでいるわ。」
椅子から立ち上がったグミに一言囁いた。
「私は、言い争うスンジョ君とお母さんが羨ましいです。」
「羨ましい?」
目を赤くしたグミはハニの方に顔を上げた。
その顔を見ると、ハニは自分たちのことで大好きなグミを泣かせてしまった事で可哀想に思えた。
「私のママは小さい時に亡くなったから、こんな風に言い争った事もなくて。パパとも喧嘩をしたこともないんです。ママが亡くなってから店を切り盛りしながら、私に寂しい思いをさせないようにと、いつも私を大切にしてくれて・・・・そんなパパを私は困らせないようにしているんですけど・・・・・・でも、出来ていなくて。頭は良くないは、店を継がせたかったのだろうけど、ママに似て料理はとてもお世辞を言えるほどでもなくて・・・・・スンジョ君だってお母さんの気持ちを本当は気づいていると思います。」
「そう?」
「お母さんはいつも、家族の為に美味しいご飯を作ってくれて、家に帰ってこればいつも電気が点いていて。暗い家に帰る寂しさは、その人にしか判らないから。だから、今日はゆっくり休んで明日の朝はいつもの笑顔で迎えてください。」
「ありがと、ハニちゃん。パパの食事は、後は温めるだけだから、それまで休ませてもらうわね・・・・本当にスンジョったらハニちゃんのこの優しさに甘えてばかりで・・・・いつか後悔させないと私の気が休まらないわ。」
グミの後姿を眺めながら、テーブルの上の食器をハニは片付け始めた。
スンジョは自分でも判らない程、自分でも判らない感情が抑える事が出来なかった。
いくらイライラとしていても、ハニを泣かせたり傷つけるつもりもないし、グミと言い争う気持ちもなかった。
昔とは違ってハニの涙は、自分の性格の悪さを戒めのように思え、ハニの涙を見れば見るほど、自分の行動や言動に対して後悔ばかりが募る。
生煮えの里芋や生豆を食べたあの時のように、ハニの思いで作ってくれた食事を黙って食べてあげればこんなに気まずい夕食にもならなかった。
____コンコン
「スンジョ君・・・・・入っていい?」
自分の部屋に入るのにも、オレに聞いてくるハニが今どんな顔をしているのか見当が付く。
「ああ・・・・・・」
いつもの様に勢いよくドアを開けるのではなく、静かにゆっくりと開けて来た。
「夕食・・・・・・温め直したから・・・・・・」
ハニはこの間のことがあるから、オレの後ろで俯いて立って待っていることが判る。
「ゴメン・・・・・・そこのテーブルの上に置いて・・・・・・読みかけの本を読んでいるから。」
「判った・・・・・お母さんを許してあげてね。お母さん・・・・泣いていたよ。」
「・・・・・・・・」
「私、まだ片付けがあるし、お父さんが帰って来たら夕食を出さないといけないから。」
「・・・・・・・」
「じゃあ・・・・・」
パタンと締まったドアの向こうでハニが泣いているのが判る。
オレが許しを請わないといけない相手は、お袋ではなくてハニだ。
ハニはどうしてそんな風に自分を後回しにしても、人の事を気遣うのだ?
ハニにしたらオレとお袋の喧嘩は、自分の母と喧嘩している様なものなのに。
もっとオレに昔みたいに怒りをぶつけるハニに戻ってくれ。
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