最後の雨 37
寝たふりをしても眠っているわけでもない。
目を開ければ暗闇でも、目が冴えて眠くもない。
ハニも眠れないのだろうか、さっきから背中に伝わる緊張感。
ハニ、お前が背中からオレに抱き付いて来ないのはどうしてだ?
オレに疾しい気持ちでもあるのか?それとも、オレが怖いのか?
怖くないはずだ。
お前はオレが怒っていても、何も気にしないで甘えて身体に触れるじゃないか。
ズズ・・・・ズ・・・・・
ン・・ゥッ・・・・・ゥゥ・・・・
スンジョはクルッと向きを変えて、ハニを胸にギュッと抱いた。
「ス・・スンジョく・・・・・ん?」
「何を泣いているんだよ。眠れないじゃないか。」
「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
ハニの泣き声で、眠れないのじゃない。
何か得体の知れない靄のようなものが 、胸の半分以上を占めている。
それなのにハニを胸に抱いただけで、その靄がスッと晴れる。
さっきまで泣いていたハニが、すぐに静かな寝息を立てて眠りだした。
ハニだけじゃない、オレだってハニを胸に抱くと気持ちが落ち着く・・・・・ハニの寝息が・・・・オレの睡眠剤のはず・・・・・・・
心は安らかになったが、冴えた目が休むことはなかった。
東の空が明るくなった頃、スンジョは自分に廻されているハニの腕を解いて、柔らかな唇に静かにキスをした。
「おはよう・・・・ハニ・・・・・」
いつから朝の挨拶をしなくなっただろうか。
ハニが悪いわけでもないのに、ハニはオレに謝ってばかりだ。
静かにベッドから出て、着替えを持ってバスルームに向かう。
シャワーは少し熱めにして、寝不足の身体を目覚めさせる。
壁に添えつけられているデジタル時計の時間は、『5:15』。
キッチンでグミは、家族の朝食の準備を始めていた。
静かに階段を下りると、グミが振り返った。
「あら・・・・起きたの?」
朝は前日に嫌なことがあっても笑顔で挨拶をすること、と小さいころにグミの実家の祖父母に聞かされた。
「昨日は、悪かった。」
「たまには言い争うのもいいけど、ハニちゃんを大切にしてあげてね。明るくていい子なのに、ここ最近はスンジョの一挙手一投足にビクビクしているわよ。」
「あぁ・・・・・・判っている。来週、ハニと出かけようと思っている。」
二人で出かけることは今思いついたこと。
二人で出かければきっと、いつもの自分たちに戻れると思っていた。
____コンコン・・・コンコン・・・・
「お~い、寝坊助のオ・ハニ!遅刻するぞぉ~。」
「ぅ・・・・・ん・・・スンジョ君・・・・・起きないと・・・スンジョ君?」
伸ばした手の先には何も触る感覚がない。
ハッと気が付いて目を開けると、横で眠っているスンジョ姿は既になく、シーツの冷たさだけが残っていた。
「スンジョ君・・・・起こしてくれなかったんだ・・・・・・私達・・・・どうなっちゃうのかな・・・・・・・」
胸がキュッとすると、堪えていても涙が出てくる。
唇を強く噛んでハニは涙を堪えた。
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