最後の雨 39
「ゴメン・・・・・・・忘れてた・・・・・」
「テソン・・・悪い・・研究室に戻る・・・・」
「ぁあ・・・・」
ラウンジにいる学生たちは、ハニとスンジョの微妙な空気の二人の様子に耳を澄ませていた。
「ちょっと、待てよ。」
スンジョは、背後から突然掛けられたその声の主を睨みつけた。
「こいつはお前の奥さんだろう。そんなにきつい言い方をしなくてもいいんじゃないか?」
合コンには気乗りのしないギョルだったが、スンジョに怯えるように俯いているハニの姿を見ていられなくなった。
ギョルはスンジョの氷のように冷たい視線から目を逸らすことなく、行く手を塞ぐように真正面に立ちその視線に挑むように見返した。
「どけよ・・・・・・」
低い地を這うようなその声を、ハニは今まで一度も聞いたことがない。
その声初めて聴いた声に、ハニは怖くて怖くて、目をギュッと瞑り拳を握って身体を震わせた。
「やだね。」
スンジョのその声に、今まで誰も言い返せた人はいない。
ギョルは全く怯む様子もなく、いつもの喧嘩腰のギョルよりももっとスンジョに敵意を見せていた。
「どけと、言っているだろう。」
「どかないね。お前がコイツに謝るまではどかない。」
「謝る必要などない、研究室に戻ってやる事があるんだ。」
「スンジョ君・・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」
ハニは小さな声で震えながら、スンジョとギョルが向かい合っている間中謝っているが、二人にはその声が聞こえていない。
「ねぇねぇ、お二人さん。」
震えて今にも倒れそうな顔をしているハニに気が付いたミンジュは、大勢の人の前で睨み合っているスンジョとギョルの間に割って入って来た。
「イケメン二人がそんなに険悪だと、ラウンジで休んでいるみんながビビるどころか、ハニが今にも倒れそうじゃない。その辺にしない?」
「そうそう、合コンのことはハニはスンジョさんが好きじゃないから、って話を持ち出した時に嫌がってたんだよ。ハニを怒らないでやってよ。」
ミンジュが間に入ったことでヘウンもようやく口を挟めるようになった。
ただ、ハニは涙を流さずただ俯いて震えているだけだった。
スンジョはさすがに公の場で、自分たちが夫婦だと知られているのに、妻のハニを怒鳴った事に悪いと思っていた。
「お前が謝らないなら、コイツを・・・・・・・」
_____ガタンと椅子が倒れたかと思うと、スンジョはハニの腕を引っ張り上げた。
「ハニ、ちょっと来いよ。」
ハニの細い腕を骨が折れるかと思うくらいに力を入れて握ると、学生たちが見ている中を、腕を引いてラウンジを出て行った。
「スンジョ君・・・ごめんなさい・・・・・・・ごめんなさい・・・・・ご・・・・・・」
ハニは最後の言葉を言い終わらないうちに、意識を無くして倒れた。
「ハニ?ハニ?」
涙を流せない程に怯えて震えているハニを、何も悪くないのに気を失うほど追い詰めてしまった。
オレがハニの事を好きだと言う事さえ夢のようで信じられない、スンジョに嫌われたら生きて行けないとまで言っていた。
ハニが合コンを嫌がっていたと言う、さっきの中もの言葉も嘘はないだろう。
意識を無くしたハニを、スンジョは救護室に運んで行った。
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