最後の雨 42
「じゃ、行くか。」
「行くって?」
「家に帰るんだよ。」
そうだった、一緒に帰ろうと言ってくれたけど、どこかに寄って行くとは言っていなかった。
ずっと一緒に帰らなかったし、話もあまりしなかった。
デートをするのかと思っちゃった。
「デートしたいのか?」
「え・・・・・」
「どこに行きたい?久しぶりに一緒に帰るから、時間も早いし行きたい所があれば連れて行ってやるよ。」
飛び上がるようにオレの腕をバンバンと叩いて喜ぶハニを期待していた。
だけどここのところのオレ達の関係が、今までとは違っていた事に気が付いた。
「いいの?私が一緒に行ってもいいの?」
「当たり前だろう。オレ達は夫婦なんだから。」
そうだオレ達は夫婦なんだから、一緒にどこかに行ってもいいに決まっている。
今まで、ハニがどこかに行きたいと言っても、連れて行ってやったことがなかったし、特に今のオレ達の関係が可笑しくなってからはハニの顔もまともに見ていないし、ハニはオレを怖がっている。
どこに行こうと前なら言っていたハニが、今は無言のまま俯いている。
「漢江のカフェ・・・・・・・に行きたい・・・・」
漢江のカフェ・・・・オレがヘラといた時にハニがジュングと来たカフェだろう。
「いい思い出の場所でもないだろう。」
「スンジョ君と行きたかったの。」
「判った。」
オレにとってもハニにとっても、あまりいい思い出の場所ではない。
てっきりオレはハニが行きたいと言う場所は、初めてキスをしたあのレストランか、ボートに乗った池かと思っていた。
あれから一年、その間にオレ達は随分と変わった。
いつも追いかけていたハニへの思いに気が付いて、両親の前で結婚宣言をして半月で結婚した。
その後は、それまで一緒に暮らしていて気が付かなかったのに、結婚してから初めてハニの存在の大きさに改めてオレには大切な人だと知った。
ハニがいなければオレはどうしていたか。
判り切っている。
あのつまらない人生を歩み、そのまま親父の会社を継いで、オレの事だから恋愛なんてしないで、それこそそれなりの家柄の令嬢と見合い結婚をしただろう。
だけど、ヘラとはきっと結婚はしない。
今は訳も判らない感情に自分の気持ちまで解らなくなっている。
あの頃と変わらないカフェは、デートスポットとして雑誌にも取り上げられているせいか、少し待ってから席に案内された。
「アメリカーノとカフェオレ。それと・・・・・何か食べるか?」
「ううん、いらない。」
どうしたらハニのあの笑顔が見られるのだろう。
オレが消してしまったハニの笑顔。
「今週末・・・・近場に旅行をしないか?」
「旅行?」
オレの言葉に驚いてハニは顔を上げたが、またすぐに下を向いてしまった。
「ああ、レポートもほぼ終わるし、時間にゆとりのある時期に、今まで一度もハニと二人で旅行に行ったことがなかったからどうかと思って。新婚旅行も、家族全員がくれて付いて来ていたし、お袋も付いてこない様にするから、二回目の新婚旅行のつもりで・・・・と思うのだけど。」
どこに行こうかハニが決められないことくらい知っている。
「最近、ハニとあまり話もしなかったから、旅行でもしてゆっくり話をしようと思う。」
「どこでもいい・・・・・・あっ・・・・海に行きたい。」
「海?まだ海開きもしていないし、お前泳げないだろう。」
「いいの、海に行きたい。」
「判った。家に帰ったら宿泊先を探すよ。」
「オートキャンプ・・・・・がいいな。」
何だかオレたちの思い出の場所巡りでもしているかのようなハニの提案。
余計なことをまた考えているのじゃないかと言う不安があった。
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