最後の雨 43
「そう・・・海に行くの。」
「スンジョ君がまだ海開きをしていないって言ったけど、どうしても行きたくて。」
「お兄ちゃんと一緒に行くのなら、ハニちゃんはどこでもいいんでしょ?」
「えぇ・・・・・」
「仲直りしていらっしゃい。」
お母さんは、スンジョ君と私たちが喧嘩をしたと思っている。
そうじゃないけど、旅行して仲良くなれるのかなんて判らない。
最近のスンジョ君、私を避けているから。
避けている理由を私は知らない。
この旅行もきっと、最後の旅行で・・・・・・もしかしたら、さよならするつもりなのかもしれない。
「春にはハニちゃんもお母さんになるのよね?」
「えっ?」
グミは口には出さないが、スンジョとハニに可愛い赤ちゃんが生まれればきっと二人は元に戻ると思っている。
喧嘩をしたわけではないが、最近はベッドに入ってもスンジョはハニに背中を向けて眠っている。
身体に触れることどころか、『お休み』や『おはよう』のキスさえしてくれない。
そんなんでは子供なんてできるはずがない。
「それは・・・・・・・」
「もうそろそろじゃないですか?ってね、ご近所の奥様たちに聞かれるの。春に生まれると、新年度になったばかりだからオリエンテーションとかで、あまり授業もないから楽かなって。」
「ハニちょっと・・・・いいかな?」
「何?」
「月曜日は午後からの授業だよな。」
「うん・・・・」
「前に言ったキャンプ場が、今整備中だから少し遠い所にしたから。」
「スンジョ君が決めたならそこでいいよ。」
本当は整備中なんかじゃない。
半日でも一緒にいれば、お互い気まずい状況から出られるような気がする。
あの車なら、キャンプ場じゃなくてもどこでも休むことは出来る。
二人で一緒に週末を過ごせば、いつもの様にまた二人で笑って家に帰ることが出来るはず。
「スンジョ君、コーヒー・・・どこに置こう。」
「ここに。」
いつの間にかお袋も、オレ達の為に気を使ってどこかに行ったみたいだ。
ハニは向かい側ではなくその一つ横に、身体を緊張させて座った。
「オレが怖いか?」
目を合せないで、違うと言うように首を横に振る。
「怖くないよ。スンジョ君は優しいし、全然怖くない。」
そう言っても。視線を外して目を合わせることを拒んでいる。
週末になったら、週末になったらきっと何もかもよくなっているはずだ。
旅行を決めてからも、オレ達の関係はあまりいい状況でもない。
今のオレのこの理由のわからない感情が、どうしてかは少しは判りかけていた。
ハニはそれなりに嬉しそうに、旅行の準備をしていたが、オレはレポート提出の月曜日に間に合うように仕上げていた。
ミニテーブルの上に置かれていたハニの携帯が鳴っている。
お袋の手伝いに行ったのか、ダイニングでお袋と話をしている声が聞こえた。
知らない番号で発信者の名前を見て、一瞬ためらったがそのままにしてはいけないことかもしれないと思って電話に出ることにした。
<おい、月曜日の朝には忘れないで持って来いよ>
「・・・・・・・」
<聞いてんのかよ>
「伝えておく。」
相手はオレが出るとは思ってもいなかったみたいで、オレが電話を切ると同時に相手も慌てた様子で受話器を置いたのが判った。
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