最後の雨 44
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「あぁ・・・・・・」
スンジョはグミが入って来てもパソコンのモニターから目を離さないで、まるで何かを拒むようにデータを打ち込んでいた。
グミは部屋のドアからキッチンの様子を伺い、ハニが片付け物をしていることを確認をすると、音が下に聞こえない様に静かにドアを閉めた。
「手が離せない?」
「・・・何?明日からハニと出かけるから、これを仕上げておかないと月曜日に戻って直ぐに教授にこのレポート提出が間に合わなくなる。打ち込みながら話を聞くよ。」
「そんなに時間を掛けて話さないから。」
スンジョには判っていた。
一緒に旅行に行くことを決めても、ハニの笑顔を見ることがない。
スンジョ自身もあまり今の状況がいいものではないことは判っているが、グミの話しよりも学校の勉強の方を優先したい。
『結婚しているからいい加減なレポートを書いた』と言われたくないのもあるし、自分の目指す道は医師と言う職業だが、もっと知りたいことが出来たからそれに付いてどうしても書きたいことがあった。
他の学生みたいに、勉強に専念できることが羨ましいとは思ったことはないが、完璧でいたいと言う気持ちは誰にも負けない物があった。
「いいよ・・・・・切りが付いた。」
そう言うと振り向いてグミと向かい合った。
「言いにくいんだけど・・・・・・・あなた達・・・何かあったの?」
「何もない。」
「そう?・・・・・・ハニちゃんが、スンジョを見る時の視線に気づいている?」
「あぁ。」
「何かに怯えてビクビクとしているし・・・・・・・まさかスンジョ、ハニちゃんに暴力なんて振っていないわよね。」
そう思われても仕方がないかも知れない。
「暴力なんて・・・あるわけないだろう。ここの所忙しくてハニの事を構えなかっただけだ。」
オレの態度は、ある意味それは心に与える暴力と同じかもしれない。
ハニより先にベッドに入って、背中を向けて眠るし、同じ部屋にいてもハニを見なければ話もしない。
感情が入っていない話し方で話せば、オレに嫌われないようにしているハニだ、敏感にオレが拒否していることくらい判るだろう。
「手遅れにならないうちに仲直りして。」
手遅れにならないうちに?
何のことだよ、別に喧嘩をしたわけじゃない。
オレの心の問題だけだから。
グミは入って来た時と同じように、ドアを開けて辺りを見回して、静かに部屋を出た。
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