最後の雨 47

キャンプ場の駐車場に車を停めるまでの間、二人は一言も話をしなかった。

「ここだ。」

誰もいない自分達二人だけしかいないキャンプ場。

スンジョを怖がるハニの緊張が、ふたりだけだと思うとスンジョにも伝わって来る。

「管理事務所に行って来るから、後ろからテーブルとベンチを出しておいてくれるか?」

無言で頷くハニの肩に触れようとした手をスンジョは引いた。

「すみません、電話をしたペク・スンジョです。」

「ペクさんですね。こちらの申し込み用紙を記入してください。」

スンジョは管理事務所で、事前にネットで入手した申込み書を提出をして手続きをした。

「申込書に不備はありません。次に、こちらのキャンプでの規約をよく読んでいただき、責任者と同行している人の名前と間柄をお書きください。」

管理事務所から自分の停めた車はよく見える。

テーブルを組み立て、ベンチを置いているハニに元気はなく、この短い旅行の間に以前のハニに戻せるのかスンジョは不安になって来た。

「ハニ、ちょっと海岸を歩かないか?」

コクンと頷いたハニの手を取ろうとするが、ハニはそれを嫌がり手を後ろに隠した。

無言で歩くその時間は、スンジョは息を止めてハニの口から聞こえる小さな声を聞きとろうとしているが、海の波の音でよく聞こえない。

「どうして話をしてくれないんだ?」

振り向きざまにハニに怒鳴るように言うと、ハニはまたビクンとして後ずさった。

「何を話したらいいのか判らない。スンジョ君は、ずっともう何日も私に怒っているみたいで、私・・・・・・・・何をしたのかも判らない。」

震えるハニの声は、寂しそうで悲しそうに聞こえる。

「ハニは何もしていない。ただ、オレのここが可笑しいんだ。」

スンジョはトントンと自分の胸を叩いた。

「ハニの事を考えれば考えるほど、胸の奥でフツフツと何かが沸き起こっているようで、それが何なのかがただ判らないだけ。ハニは何も悪くないし何もしていない。」

「それじゃぁ、どうしていつも私に背中を向けて眠るの?私はスンジョ君の胸の中でいつも眠りたいのに・・・・・それなのに・・・・・背中を向けて眠っていたのを見ると、どんな気持ちになると思う?何かあるたびに怒鳴られて、スンジョ君に叱られるようなことをした覚えもないのに、イライラと不機嫌な顔をして。最初は勉強が忙しいからとか?疲れているんだとか?そう思って我慢していたのに。お母さんに心配かけたくないから、私って・・・・バカみたいにヘラヘラと笑うしかなくて・・・・・・もうスンジョ君と話をするのに疲れちゃった。」

最後のハニの言葉は、スンジョの胸に鋭利な刃物が突き刺さるような痛みを感じた。

「甘えていたよな、ハニに。お前はオレから絶対に離れないから、どんな態度を取っても、気にしないでオレの話を聞いてくれるって。」

「スンジョ君・・・私の事を嫌いになったんでしょ?」

「違うよ、ハニの事は嫌いじゃない・・・・・」

「いいよ、嘘を吐かなくても。」

「嘘じゃない、嘘じゃない。嘘ならハニと旅行に来たいなんて言わないだろ?いつも笑っているハニに戻って欲しいから・・・・・・・・」

「無理しなくていいから・・・・・」

話せば話すだけややこしく違う方に話が向いてしまう。

ハニと結婚を決めた時とハニへの思いは変わらずに一緒なのに、ハニはオレの言っていることを素直に受け取ってくれない。

「無理はしていない・・・・・ハニが望むようにするから、明日までのこの短い時間に元のハニに戻ってくれないか?」

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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