最後の雨 48
「信じられない・・・・・」
「信じてくれよ。オレが本当のオレになれるのは、そこにハニがいるから・・・・・・」
ハニの手を掴むが、ハニはその手を振りほどいた。
「それならどうして急に不機嫌になったり、優しくなったりするのよ!我慢していたよ。結婚する前に私に言ったことを覚えている?」
ハニが言っていることは、何を言っているのかスンジョには判らない。
「覚えていないでしょ?スンジョ君はそう言う人なのよ。天才かも知れないけど、女の子が一番言って欲しい事や、して欲しい事が何なのか知らないの。別に愛しているとか、好きだとか言って欲しいわけでもないけど、スンジョ君はそんな素振りをしてくれた事を一度もないわ。私がバカだから・・・・見下してるのよ。」
「何を言っているんだよ。オレが何を言った?」
「オレはお前に合わせてやれない、と言ったでしょ?」
あのときの事か・・・・・・・事実ではあるけど、その言葉がいけないのか?
「合わせてくれなくても、私の方が勝手に好きになったのだから、ずっと合わせているつもりだった。看護学科に行こうと決めたのは、スンジョ君と同じ職場で働きたいだけじゃないの。少しでもいいからスンジョ君に釣り合う女性になりたくて看護師になったの。」
ジリジリと後ずさりするハニと間を開けないように近づくが、ハニはさらに後ろに下がる。
「こっちに来ないか?」
「嫌っ!」
怯えているハニはさらに二歩下がったが、気が付いていないのだろうか。
もう少し下がると海に落ちてしまう。
「ハニ・・・・・ちゃんと話がしたいから、こっちに来いよ。そのまま後ろに下がると海だぞ。」
近づけばハニは下がる。
何もそのことを言わないで、何とかこちらに来させようと思っていたがもう限界だった。
ハニは泳げないし、ハニの後ろの場所は水深が深い。
一瞬ハニが振り向いた瞬間に、スンジョは一歩前に出たが、ハニの思わぬ行動にスンジョの動きが止まった。
「私、スンジョ君が私の事を見てくれないのなら、生きているのは辛い・・・・・・苦しくて苦しくて、息も出来ないくらいに苦しくて胸がつぶれそうで。だから・・・・・・・・・・・・」
ハニはそう言うと目を瞑って、海の方に一歩踏み出した。
「ハニ!」
スンジョの叫び声よりもハニが海に飛び込んだ方がほんのちょっと早かった。
ハニが落ちた所を上から覗いて確認をして、スンジョは辺りを見回し海から上がるいちばん近い岸を確認すると、シャツを脱いで飛び込んだ。
海面までの距離と時間がとても長く、海の中は真っ暗でハニの姿を探そうとするが見えない。
ハニが離れて行くことが、どんなに自分にとって一番辛いのかは判っていたが、ハニの向けるギョルへの笑顔に寂しくてイライラとしていた。
どこに・・・どこにハニはいるんだ?
水深が深くなればなるほど、息を止めている時間も短くなる。
潮の流れも速く、このまま二人とも海から上がれなくなると思った時、少し先にハニの着ている服と似た色が見えた。
スンジョは一度海の上に出て、大きく息を吸ってまたすぐに潜った。
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