最後の雨 50

“さようなら”

どういう意味だ?

オレと別れると言う事か?

自らお前は命を絶ったりしないはずだ。

母親が亡くなってから、父と娘二人でずっと生活をして来たのだから。

ハニはお義父さんを悲しませるような娘じゃないし、自ら命を絶つような娘でもないはずだ。

お前が言った“さようなら”の意味が解らない。

「スンジョ?」

人が部屋に入って来た事に、気が付かないでいた。

振り返れば、お袋が心配そうに病室のドアを開けて顔を覗かせていた。

「ぁあ、やっぱりスンジョね。びっくりしたわ、二人で旅行に行ったと思っていたから、警察から電話が掛って来て。」

グミは二人に何かあったことは知っていたが、あえて何も聞かず持って来た着替えをスンジョに渡した。

「ずぶ濡れね・・・・着替えていらっしゃい。」

「お袋・・・・・」

「話は着替えてから聞くから・・・・ハニちゃんはその間、私が見ているから大丈夫よ。」

お袋は知っている。

オレとハニが最近上手くいっていなかったことを。

ハニが怯えてオレを見ていることを、ハニを溺愛しているお袋ならすぐに判る。

廊下に出ると、看護師にシャワールームを使ってもいいと言われ、決してきれいとは言えない古いシャワールームに案内された。

初夏にもならないこの時期に、海に飛び込んですぐに脱ぎ捨てたシャツを着ても、冷えた身体が温まるのには時間が掛る。

冷えた身体よりも、海に落ちて行くハニを上から見ている時の恐怖は思い出したくない。

泳げないハニが、思い切った行動に出ると思ったのはほんの少し。

水中を目を凝らして探しても、なかなか見つからないハニを思うと、寒さとは別の感覚で身体が震えた。

「ありがとうございました。」

シャワーを浴びて、多少は身体が温まったはずなのに身体の震えは止まらない。

詰所にいる看護師にシャワールーム使用の礼を言って、お袋とハニのいる病室に入った。

「警察からは・・・・・・事故と聞いたけど・・・・・本当なの?」

振り向きもしないでグミは、入り口付近に立っているスンジョに聞いた。

「判らない・・・・判らない・・後退さっていたハニが、落ちそうになる直前に 海の方を向いたんだ。」

「ハニちゃんを失いたくないのでしょ?」

「ああ・・・・・」

「それ以上にスンジョを失いたくないのよ、ハニちゃんは。長い間スンジョを待っていた子なのよ。あなたの性格の悪い所もすべてが好きで、ずっと耐えていたことは知っているわよね。」

「ああ・・・・・・」

「最初はハニちゃんが言うように、医学部の勉強が忙しくて大変だからって、私そう思っていたけど違うのでしょ?」

何も言い返せない。

勉強が大変だとか、レポートで忙しいなんて言うのはオレの、ただの言い逃れだから。

「医学部の勉強でハニちゃんを疎かにしたりするくらいなら、医学部を辞めてパパの会社を継いで。これ以上ハニちゃんを苦しめたりしないでよ。あなたがユン会長の孫娘と見合いをした時、どれほどハニちゃんの心を傷つけ苦しめたのよ。あの時のスンジョは自分の子供でも憎いと思ったわ。」

時々魘されているハニの苦しそうな顔を見ると、さっき聞いた言葉を言っているようにも見える。

「さっき、ギドンさんから連絡があったわ。仕事を任せて、こちらに向かっているって。」

お義父さんが事情を知ったら、ハニと家を出て行くかもしれない。

ハニを追いつめて苦しめたのだから。

「オレ・・・・・ハニが看護科に通うようになってから、顔を見ようとしなかった。こんなに痩せてしまっていることにも気が付いていなかった。」

「知っていたわ。でも、ハニちゃんは私に心配かけないように、一生懸命に笑顔でいたわ。」

「その耐えて笑っているハニの笑顔が辛い・・・・・辛くて苦しい。オレを見る時に怯えたりするのも辛いが、オレの態度に耐えていると思うと、そんな顔を見たくない。」

見たくないのならそんな状況を作ってはいけないことくらい分かっていた。

「ハニは看護科の一人の男子学生と、オレに向ける顔とは違う自然に笑顔向けるのがそれよりも嫌だ。」

ハニと上手く行かなくなってから初めて言葉にして言った言葉が、言ったことで自分の心の中の塊が取れた気がした。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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