最後の雨 53
お袋にキャンプ場の駐車場まで送ってもらう間、一言も口を利かないオレに何か聞きたそうにしていることが伝わって来たが、見えない壁でもあるのか運転に集中していた。
「そこの道を入って・・・・・・」
深夜の為、キャンプ場から国道に抜ける道は真っ暗で、ヘッドライトの灯りだけが頼りだ。
季節外れのキャンプ場に停まっている車は、お袋の車とオレ達が乗って来た車の他に数台あるだけだ。
救急車を呼んでくれた管理人に挨拶をしたかったが、窓口の開いてる時間は、とっくに過ぎていた。
「今夜はどうするの?」
「明日の朝帰るよ。管理人に挨拶をしないといけないし。」
「そう・・・・・私も、こんな深夜に運転をしたことがないからどうしょう・・・・」
シーズンに使う時は、いつもスンジョたち男性陣は外にテントを張って眠っていたが、シーズンオフのこの時期外気温の事を考えると、外で眠るわけにはいかない。
「オレ。上で眠るからお袋はいつものようにシートをフラットにして眠ってくれればいい。着替えは・・・」
「着替えはいいわ。遅くなるかもしれないから持って来たから。」
手際よくシートを倒して寝具を敷き終わると、ギドンと話したことを聞いて来た。
「何を話したの?」
「・・・・・・・・・」
「言いなさい。自分の胸に溜め込んだらダメよ。」
「別居をした方が、いいのじゃないかって。医学部を卒業するまでの三年間。」
「まさか・・ギドンさんが・・・いいえ、ギドンさんなら言うわね。スンジョもハニちゃんも辛い顔をしていたから。で・・どうするの?」
迷うことなく別居はしないと言えない自分の心の小ささに情けなくなって来る。
「ハニちゃんとちゃんと話し合って、二人で納得する答えを出したら?」
お袋の言う言葉は別居してそのまま別れろとは言っていないが、きっとハニがいなければお袋の元気もなくなることは分かっている。
「すぐには答えが出なくてもいいけど、一晩考えても簡単に心は決まらないだろうし、家に帰ってパパと3人で話すことにした方がいいわね。三年は長いけど永遠ではないから・・・・・・」
永遠ではない・・・・・
ハニがオレの傍から離れる事なんて考えたことがないから、例え三年でも永遠になる事もある。
ハニがいてくれるから安らげたのに、オレが意味も判らないことに戸惑っている間に、ハニはオレを見て怯えるようになった。
「三年か・・・・・・・」
声に出して言ってみると、お義父さんに言われたことが現実だと判った。
結局、オレが勉強に専念できることをハニが願っていると、お義父さんからの伝言を聞き、オレ達の部屋からハニの物が全てではないが、大学から帰ったら無くなっていた。
一人で眠るのには大き過ぎるベッドに、クローゼットの半分以上を占めていたハニの服が少数残しただけで無くなっていた。
「ウンジョ!お兄ちゃんとハニちゃんを呼んで来て。」
「ママ・・・ハニはいないよ。」
「そうだったわ、つい癖でね。」
勉強だって捗らない。
たった数日で、ハニに会いたくて落ち着かないし、キスをして抱きしめてユックリと眠りたい。。
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