最後の雨 59
「こ・・・・これからの事って・・・・」
「いいから・・・ほら・・・皆が店から出て来たから、泊まれる所に行くぞ。」
酔っている看護学科と医学部の連中の声は大きく、離れているハニたちにもよく聞こえる。
「ハニとペク・スンジョは知らない間に帰って・・・・・」
「いいじゃないか、夫婦だから酔った勢いでしたいことでもあるんだろう?」
「ぃやらしぃ~ギョルのエッチ!」
「な・・・」
「鞄・・・どうしよう・・・」
「オレ飲んでないから家に届けるよ。」
「じゃあ、私たちも一緒に・・・・・」
ハニとスンジョが行った先は家ではないが、そんなことを知らないミンジュとギョルたち看護学科の仲間。
いつもの四人はギョルの車に乗って、ペク家に向かった。
ハニは新婚旅行以外で、家ではない所に泊まることに緊張して来た。
何もしないと言ってくれているスンジョの言葉に、多少寂しい気持ちはあったが、これからの事を話すと言われて、別居がそのまま『さよなら』になってしまうのではないかと思った。
「行くぞ。」
「うん・・・・・・」
「どうした?」
「初めてだね・・・・・・スンジョ君と新婚旅行以外で、外で泊まるのは。」
「そうだな・・・・」
遅い時間の宿泊に、エレベーターの中で話すのも声が響いて感じる。
____チンッ!
ボタンを押した階でエレベーターが停まり、無言でハニはスンジョの後ろを歩いた。
まだ酔いが残っているからだろうか、フラッとして前につんのめりスンジョも背中とぶつかった。
「大丈夫か?」
サッと差し出されるスンジョの手が、今のハニには遠くに感じた。
手を繋ごうとしないハニに、スンジョの方から繋いできた。
「この部屋だ。」
カチャリと鍵が開く音がして、静かにドアを開けると、少し狭いが大きめのベッドが一つ置かれていた。
「ダブルにした。シングルだとハニがベッドから落ちるから。」
「私、寝相がいいよ。ベッドから落ちたことなんてないもの。」
「知らないのか?オレが落ちないようにいつも抱いていたのを。」
「知らない・・・・」
スンジョと二人っきりで過ごすのは、結婚しているのだから恥ずかしくもないのだけれど、一週間前のスンジョと感じが違う所為か、妙に気恥ずかしく感じた。
「座って話そうか・・・・・」
スンジョは椅子ではなく、ベッドに腰掛けてハニには椅子に座るように指した。
「私・・・・スンジョ君の横でもいい?」
これからの事を話すのに、顔を見ると涙が出そうになる。
横に座って顔を見なければ、泣かないかもしれない。
スンジョの身体に触れないくらいの距離にハニは座った。
出来れば少しでも遅くスンジョから『さよなら』を言われるのを避けたい。
どうしたらいいのか、ハニはハニなりに冷静に考えた。
「そうだ!パパに連絡しないと!医学部との合コンで遅くなるとは言っていなかった・・・・」
「そうだな。お義父さんも、ハニと一緒にペク家を出たからあたり前だけど、医学部との合コンに行った事を知らないのなら、こんなに遅くになっても帰って来ないハニを心配しているだろうな。」
イチ・二となぜか深呼吸をしてハニはギドンに電話を掛けた。
「パパ?・・・・あのね・・・・飲みすぎちゃって・・・・うんうん・・・・大丈夫。看護学科の友達と急に飲みに行く事になって・・・看護科の友達の家に泊めてもらうから・・・・・うん、判った・・・・・・」
「嘘を吐くことないだろう」
「そうだけど・・・・・・」
解っていた。
スンジョと一緒にいると言う事を口に出してしまうと、三年間会わないつもりでいた自分の気持ちが抑えられなくなりそうだから。
今は三年間よりも、もしかしたらもうこれで終わりにしようと言われるかもしれない。
そんな不安が、胸を押しつぶしそうだった。
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