最後の雨 60

静まり返った遅い時間の豪邸ばかりが立ち並ぶ閑静な住宅街を、一台の車が坂を上っていた。

「さすがというか、金持ちの住んでいる家は、静かだねぇ。ギョルのオンボロ車のエンジン音が響いてるよ。」

「悪かったな、オンボロ車で。」

「この先の煉瓦塀の家だったよね。暗いとよく判らないね。」

坂を上り切った所で車は静かに停まった。

「誰が行く?やっぱり私よね。」

「何を言ってんのよ。オカマよりやっぱりハニの友人代表として私がハニの鞄を持って行くわ。」

ミンジュとヘウンはどちらが行くのか、ハニの鞄を引っ張り合いお互いに譲れなかった。

「オレが行く」

結局騒いでいる間にギョルが車から降りて、ペク家の門の前に立ちインターフォンを押した。

<はい。どなた?>

「あっ、看護学科の・・・・・」

<まぁ!ハニちゃんのお友達?困ったわね・・・・ちょっと待ってね>

賑やかなグミの声が、静かな住宅街でよく聞こえた。

「困ったって・・・・・どうしてだろう。」

「さぁ?」

パタパタと駆け下りてくる足音がしてすぐに門扉が開いた。

ギョルたち看護学科の四人は、スンジョの母だとは分かっていたが、思ったよりも若い女性だったことに戸惑った。

「ハニちゃんのお友達?」

「は・・・はい。」

「お入りになる?」

遅い時間の訪問にも、笑顔で応えるスンジョの母に、さすがに緊張してきた。

「いえ・・・ハニが、鞄を忘れて・・・・息子さんと帰ったので。」

「まっ!お兄ちゃんったら・・・・・我慢が出来なくなったのね。」

「はぁ?」

「いいの、気にしないでね。ハニちゃんもお兄ちゃんも今日は帰らないで、どこかで泊まって来るみたいなの。」

「はぁ・・・・・・・」

「でもいいわ、明日届けるから。」

「はぁ・・・・・」

「よかったらお茶でも飲んで行かない?」

グミの一方的に話す言葉に、四人はタジタジ。

「本当に・・・・鞄を届けただけなので、今日は・・・・・・」

「そうなの・・・・うちは困らないんだけど。」

親しげに話すグミに、つい言葉に乗ってしまいそうになったが、家が遠いからと言って断り、家の中には入らずに直ぐ四人はギョルの車に乗って来た道を戻って来た。

「ねぇ・・・どういう事だろうね、届けるって。」

「大学にだろ?」

「でもさ、明日は休みじゃん。」

「もしかして、別居とか?」

スンジョとハニは部屋に入ってから30分ただ黙って座っていた。

「スンジョ君・・・あの・・・・コンビニ開いているかな?」

「この辺にはなかったぞ。何か欲しいのか?」

「ぅん・・・あの・・・・・」

「サニタリー用品か?」

「うん・・・・トイレに行きたいし・・・・・・鞄がないから・・・・・」

「フロントにあるかもしれないから、貰ってこようか?」

さすがにスンジョにサニタリー用品を頼むのは恥かしかった。

鞄をミンジュ達が持っていることは分かっているが、それが欲しいためだけに連絡しようにも携帯も持っていない。

「恥ずかしがるな。オレは夫だからそれくらいなんでもない。」

すぐにスンジョはフロントに連絡を取って、用意してあることを聞きそれを取に行った。

「恥ずかしいな・・・・スンジョ君がそこまでするんだから、きっとそれが最後の思い出になるのかな。どうして今日、生理が来ちゃうのよ。ずっと遅れていたからもしかしたらって思ってたのに・・・・・・離婚して独りぼっちになるなんて嫌だよ。」

いつの間にか、スンジョが部屋に戻って来たことを知らなかったハニはスンジョの言葉にビックリした。

「お前・・・・・オレと離婚するつもりなのか?」

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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