最後の雨 61
自分は離婚をするつもりはなかったが、スンジョは離婚を切り出すためにここに来たのだとハニは思っていた。
何も答えないハニに、スンジョはもう一度聞き直した。
「ハニ、オレと離婚するのか?本気か?」
「スンジョ君・・・・ちが・・・・・」
「話は後にしようか・・・・・ほら、貰って来たからトイレに行って来いよ。」
スンジョはフロントから貰ってきた小さな包みをハニに渡した。
そのスンジョの手が震えているのをハニは初めて見た気がする。
「ありがとう・・・・・・・・」
消えそうなほどに小さな声でも、スンジョにははっきりと聞こえる。
パタンとトイレのドアを閉めると、泣きたいのを堪えていたハニの目から涙が流れて来た。
違う・・・・離婚なんてしたくない。
私にはスンジョ君しかいないし、スンジョ君の傍にずっといたい。
男の人が自分の妻の為であっても、他の人はサニタリー用品を貰って来ないし、あるかどうかも聞かないのに、『妻だから』というだけで、あのスンジョ君が貰って来てくれた。
どう話したらいいのかな?
すれ違ったらもう一緒になることは出来ないのかな?
私はスンジョ君が私との結婚生活を続けたくないと言っても、絶対に別れたくない。
トイレのドアを閉めて、ハニの姿が見えなくなると、スンジョはドスンとベッドに座り込んだ。
ハニはそこまで心を決めているのか?
いや・・・ハニはオレの傍から離れるはずがない。
今までもずっと待っていてくれたし、オレしか見ていなかったじゃないか。
ヘラと見合いをした時も、オレがハニへの思いに気づくまで待っていてくれたじゃないか。
オレを諦めて、ジュングとのことを考えていても、オレの事を忘れていなかったじゃないか。
オレが、訳のわからない態度を取ったことに嫌気を指したのか。
トイレの水を流す音が聞こえて来た。
スンジョは何も気にしていないように見せるため、平静を装い冷蔵庫から冷えたビールとお茶の缶を取り出した。
「スンジョ君・・・・・」
スンジョの表情に敏感なハニは、不安そうにスンジョの顔を見上げた。
「飲むか?」
コクンと頷くハニに、缶のプルタブを開けて渡した。
「座って話そう。」
そう言って冷たく冷えたビールを、グッと一口喉に流した。
「オレと離婚するつもりか?」
ハニを怖がらせないように、出来る限り動揺を見せないように、心を落ち付かせて優しく聞いた。
首を横に振るハニは、泣いていたのか涙が飛んでスンジョの腕に付いた。
「そうか・・・・・」
またビールをグッと飲んで、その缶をミニテーブルの上に “コンッ” と置いた。
「スンジョ君は、私とはこれっきりにするつもりなの?」
ハニにしたらこの言葉を言うのに、どれだけ勇気が行ったのかはスンジョには判る。
もう泣かせないと誓ったハニを、また泣かせておまけに苦しませて怯えさせてしまった。
壁にぶち当たって、逃げてばかりいるのはいつも自分だ。
逃げてばかりいて、何も解決をしていない。
「オレの気持ちは・・・・・・」
スンジョがハニの目をしっかりと見つめて口を開いた。
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