最後の雨 63
フフフとハニが小さな声を漏らして笑っていた。
「何が可笑しいんだ?」
「だって・・・・スンジョ君が嫉妬というのを知らなかったって・・・・なんでも知っているスンジョ君の知らない部分を知って・・・・・クスクス・・・・・」
「嫌いになったか?お前の中での完璧なペク・スンジョのイメージが崩れたか?」
「もっともっと大好きになった。スンジョ君も、私と同じように勝手に妄想して嫉妬して・・・・同じだと思ったら嬉しくって・・・」
笑ながらハニは首を横に振って、スンジョに抱き付いた。
その勢いでベッドに倒れ込むと、スンジョはハニをきつく抱き返した。
「ハニがオレに襲い掛かってくれるのは嬉しいが、今日は何も出来ないから残念だ。」
「そんな・・・つもりじゃないけど、嬉しくて・・・スンジョ君に捨てられると思って、毎日が怖くて仕方がなかった。スンジョ君に嫌われたら生きて行けないもの。」
「嫌いになんかならないよ。嫌いになんてなれるか。だけど、もう少し話を聞いてくれるか?」
二人はまた起き上がって今度はちゃんと向かい合った。
自分の気持ちに素直になってハニを見れば、ハニの目には自分しか映っていないことがはっきりと見えた。
「まだハニとは一緒に暮らせない。」
「どうして?私は一分一秒でもスンジョ君と離れていたくはないのに。」
「お義父さんがくれたチャンスを、もう少しか考えてみたいんだ。」
「チャンス?」
「ああ、ずっとあのまま一緒に暮らしていたらもっとハニを傷つけていた。勉強を理由にしていた自分の未熟さ。大好きなハニを一時でも信じられなかった気持ちを、自分戒めてみたいんだ。オレは確実に納得しないと前に進めないから、この先もずっとハニと一緒にいたいからもう少し時間をくれるか?」
「うん、待ってる。待ってるから迎えに来てくれる?」
「勿論。いつもお前を待たせてばかりで悪いと思うが、必ずお前を迎えに行くから待ってろよ。その代り何年かかるかわからないけど、オレが医者になった時は、ハニは看護師になっていないといけないからな。」
「そんな先まで・・・・・まだ二年以上学校に行かないといけない・・・・・そんなに離れていたら、寂しくて我慢が出来なくなる。」
こんなハニが好きだ。
物事を素直に考えるハニが好きだ。
オレの捻くれた心には、ハニのこの素直な考えがないとどうしようもない。
「そんなにかからないさ。それまでは、外で普通の恋人のようにデートして過ごそう。結婚する前にハニが恋人としたかったことを一緒にやって行くんだ。」
そんなに長い時間話していたわけではなかったが、漆黒の空が少し明るくなって来た。
「もう寝るか?」
「起きてる・・・・」
「起きてるって・・・チェックアウトの時間まではいられるぞ。」
ハニはそんな意味で言ったわけではない。
あの苦しかった時期とは全く違うくらいに今は幸せだ。
もしかしたら、これは夢で、眠って起きたらまた一人ぼっちの寂しい時間を過ごしているような気がしていた。
「なら、11時まで起きてろ。オレは寝るから・・・ハニがいなくて寂しくて眠れなかったから・・・・限界だ・・・・」
ササッと服を脱いで、勢いよく掛け布団を上げてスンジョは目を閉じた。
本当に眠れなかったのだろう、目を閉じたらすぐに寝息が聞こえて来た。
ハニは備え付けのナイトウエアに着替えて、久しぶりにスンジョの横に入ると、またいつもやって貰っていたようにスンジョが腕を伸ばしてハニがベッドから落ちないように抱いてくれた。
起きていないのに、半年の結婚生活で自然と身についた習慣だった。
温かいスンジョの身体に、ピッタリと寄り添うと、ハニは寝つけられず長い時間スンジョの綺麗な寝顔を見ていた。
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