最後の雨 64
いつもそうだった様に、朝になって先に起きるのはスンジョの方。
自分に廻された腕をそっと外して、シャワーを浴びて眠気を覚ました。
一人で眠っていたベッドは、広くて寒くて、深い眠りに入ることは出来なくて、身体に疲れは溜まる一方だった。
一晩だけ久しぶりにハニと一緒のベッドに入っただけなのに、今までの疲れがサッパリと取れて清々しい目覚めだった。
シャワールームを出て、ベッドの所まで行くと、ハニはまだよく寝ていて声を掛けても起きそうにもなかった。
勝手にイライラして、ハニを遠ざけていた時は、こんな風に幸せそうに眠っている寝顔さえ見ていなかった。
「随分と痩せたな・・・・お前はオレの心の動きにいつも合わせているみたいに、何かあると食事も摂れないくらいになって痩せてしまう。ゴメン、もう少しもう少しだけオレに時間をくれ。自分に芽生えた嫉妬という感情を受け入れることが出来たら、必ずハニを迎えに行くから。」
どれだけ見ても飽きることのないハニの寝顔。
眠っていてもよく変わる表情。
「ハニ・・・・・もう、起きないか?」
「ん・・・・・・」
寝起きのよくないハニを起こすのも久しぶりだ。
一応起きているつもりで、返事をしている事は分かっている。
「起きないのか?」
「ん・・・・起きた・・・・・」
起きたと言っても、それは口だけで後から聞くと覚えていないと言う。
ハニの手は、オレがいつも寝ている方を、探って動いている。
スンジョはハニの耳元に口を近づけて、笑いを堪えて囁いた。
「お客さん、起きていただかないと困ります・・・・・」
「は・・・・・い・・・・スンジョ・・・・誰か呼んでる・・・・・」
「お連れ様は、お帰りになられました。」
「えっ!?」
勢い良くハニが起き上がって、あわや頭突きになるところだったが、目の前で自分を見て笑っているスンジョに気が付いた。
「ここ・・・・どこ・・・・?」
「自分の家でもなければ、店の二階の部屋でもないな・・・・ 覚えていない程も酒を飲んだのか?」
「えっと・・・・」
「オレが人生初の大告白をしたのに忘れたのなら、すごいショックだな。あの時のお前は素面(しらふ)だと思って話したのに。」
「覚えてる・・覚えてるよ・・・・」
判ってるさ、今は寝ぼけて起きただけで、あの時のハニはアルコールなんて抜けていたから。
飲まずにいられない状況にしたことは本当に悪い気持ちだ。
「シャワーを浴びて、食事をしに行くぞ。」
乱れたナイトウエアを気にして、ハニは赤い顔でシャワールームに入って行った。
ハニの慌てる姿も、今は愛しくてこのままお義父さんに何も言わずに家に連れて帰りたい。
向かい合って食事をしているハニを見て、こんな風にハニが食べているんだと言うこともオレは知らなかった。
オレの知らないハニは、まだたくさんあることも今更になって気が付いた。
まだまだオレは、子供みたいな部分もあって、ハニを泣かせてしまうかもしれない。
絶対に泣かせないとは言い切れないが、ただ言えるのはハニが今まで以上に好きになったと言うことだ。
「スンジョ君、食べないの?」
オレが甘い物を食べないと言っているのに、朝からアイスクリームやらゼリーにプリンをどれだけ取って来たのか。
「食べられれば、ハニが食べてくれよ。オレはまずいコーヒーを飲むから。」
「まずいなんて言ったら・・・・・ホテルの人に聞こえるよ。」
「まずいものはまずい。オレの好きなコーヒーは、ハニの淹れたコーヒーだけだから。」
恥ずかしそうに笑うハニに、ここがホテルのカフェで、誰もいなかったらキスをしたくなりそうだ。
「・・・・・プ・・・プリン・・・食べるね・・・・アイスクリームも・・・・・ふ・・太っちゃう。」
太ってもいいさ。
お前は少しふっくらしている方が、お前らしくてオレは好きだよ。
出来るだけ早く、一緒に朝食を摂れるように、オレは早く自分の気持ちに整理を付けるから、待っていてくれよ。
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