最後の雨 66
グミはチラッと厨房をまた覗いて、誰もこちらの行動を見ていない事を確認してハニにそれを手渡した。
「二人でどこかで話したいのだけど、体調の方は大丈夫?」
「どこも悪くはないですけど・・・・・・」
「そう?スンジョがハニちゃんの体調が悪いから、あまり長く連れまわすなよって・・・言ってたの。」
体調は悪くないが、生理中だから貧血気味ではあるが、多分スンジョがそのことをグミに言ってくれているのだとハニは思った。
「ギドンさん、ギドンさん。ちょっとハニちゃんと買い物に行ってきてもいいかしら?」
「あぁ、奥さんいいですよ。今日はジュングもクリスも手伝いに来てくれていますから、人手は足りていますので。」
ハニが結婚してからは、ジュングの大失恋の傷をクリスが癒してくれた。
あれほどハニ一筋だったジュングが、クリスの明るい人柄に気持ちが移るのは意外と速かった。
クリスの外見はハニとは違うが、明るく屈託のない笑顔はハニと似ていた。
「ジュング、クリス・・・・じゃ・・ちょっとお母さんと出かけるから。」
「気にせんでいいから、私とジュングに任せて、ユックゥリしてきてイイヨ。」
毎日のように店に来ているから、クリスはいつの間にかしっがりと≪ソ・パルボク ククス≫の雰囲気に馴染んで来ていた。
結婚してもハニは時々店に手伝いに来ていたが、知らない間に今ではクリスの方が接客が上達していた。
「この辺で素敵なカフェとかあれば、そこに入らない?」
「素敵なカフェ・・・・・この辺はそんなお店が無くて・・・・・アイスクリームのお店でもいいですか?」
「いいわよ!ハニちゃんと一緒ならどんなお店でもいいわ。」
グミと並んで歩くのは久しぶりだ。
同居してからも結婚してからも、よく一緒に二人で買い物に行ったりしていたが、最近は看護学科の勉強が大変だったのと、スンジョと気まずくなったら、グミに心を見透かされるような気がして避けていた。
「お母さん、ここのお店です。」
「素敵ね・・・こんなお店に娘と入りたかったのよぉ。」
ショーケースに並べられた色とりどりのアイスクリームの樽から、食べたいものを選んで店員に告げる。
そんなことをハニも母としたことがなかったし、グミも娘としたことがなかった。
「ハニちゃん、ハニちゃん・・お勧めはどれ?」
「お母さん・・・私は意外と、大人な物が好きなんです。」
顔を近づけて選んでいる二人は本当の母娘のように見える。
「ミントチョコとレーズンラムのダブルで・・・・・」
「はい、ミントチョコとレーズンラムのダブルですね?お母様はいかがなさいますか?」
「私も一緒のを、お願いするわ。」
「お嬢様とご一緒の物でよろしいですね?」
トレイに乗せたアイスクリームを、空いている席まで一緒に運び、向かい合って座った。
「あの店員さん、私とハニちゃんを母と娘と思ったみたいね。」
グミの嬉しそうな明るい笑顔はとても温かくて、またこの笑顔を見ることが出来てハニは嬉しかった。
「はい、鞄よ。昨日の夜ね、看護学科のお友達が届けてくれたのよ。あの背の高い男の子が、ハニちゃんとお兄ちゃんが別居しているのに気が付いたみたいなの。大丈夫かしら。」
ハニはギョルに別居していることが知られても、今はスンジョを信じているから何も気にならなかった。
「大丈夫です。スンジョ君が迎えに来てくれるまで待ちますから。」
グミは口に入れたアイスクリームをゴクンと食べて、トントンと指でテーブルを叩いた。
「今日はね、鞄を持って来ただけじゃなくてね、お兄ちゃんからハニちゃんを迎えに行くまで、そっとしておいてくれって言われたけど、裏をかいてね・・・・・・今日ハニちゃんを家に連れて帰ろうかと思うの。」
「お母さん・・・・・」
「嫌だったかしら?ハニちゃん、帰って来てくれるでしょ?」
ハニは首を横に振った。
「きっとスンジョ君は、私がお母さんと一緒に帰る可能性も知っていると思うんです。でも、スンジョ君が迎えて来てくれるまで待ちます。」
「そうね・・・お兄ちゃんは、何もかも口に出す前に想定しているから。いつもハニちゃんに待たせてばかりでゴメンなさいね。」
「そんな・・・・・謝らないでください。」
ハニは昔高校生の時に見た夢を今でも忘れていない。
白い馬に乗ったスンジョ王子様が、自分を迎えに来てくれると言う夢。
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