最後の雨 67
グミが帰って来るのを待っているわけでもないが、スンジョはリビングで本を読んでいても落ち付かなかった。
何度も同じ行を見ていて先に進めない。
こんなことは、自分の人生21で一度もなかった。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「ん?」
「さっきからニヤニヤとして・・・・ハニが家にいないのがそんなに嬉しいの?」
「本が面白かったからかな。」
ウンジョがオレの本を横から覗きこまないことを知っているから、こんな言葉が出たのだろう。
この本が面白いわけがない。
なぜなら、医学書の間に挟んだハニがオレ宛のラブレターを読んでいたのだから。
「あっ!ママが帰って来た。」
ウンジョはグミが帰って来た事に気が付くと玄関まで出迎えた。
手にはウンジョの好きなアイスクリーム店の袋を下げていた。
スンジョはグミの後ろを見るが、その後ろには人影が見えなかった。
「あら!?お兄ちゃん、ハニちゃんを待っていたの?」
_____ 図星
それでもオレが認めることがないことはお袋だって知っている。
「別に・・・早くドアを閉めてくれないか?」
ハニのヤツ、オレの裏の裏をかいたな。
「ハニちゃんね、お兄ちゃんが迎えに来るまで待っているって。どこがいいのかしらね、妻と別居しても平気な顔をして本を読んでいる夫なんて。」
平気なんかじゃない。
ダブルサイズのベッドが、キングサイズに思うくらい広くて冷たい。
「ちゃんと迎えに行ってくれるのよね?」
「あぁ・・・・」
「迎えに行ってくれないと・・・・・・寂しくて・・・・・」
オレだって寂しい。
ハニと愛し合ったのはもう何カ月も前だ。
お休みのキスも、五月蝿くしゃべるハニの口封じのキスも、今はしたくて仕方がない。
だけど、オレがハニを全力で守れるという気持ちになるまでは、迎えに行ってもまたハニを泣かせてしまうから。
「いつ?いつ迎えに行ってくれるの?」
「さぁ・・・・・」
「さぁ・・って、何を考えているのよ。」
オレだって判らないさ。
ハニが今までオレをこんな風にいつも待っていたのかと思うと、もう二度とハニを不安にさせない方法を考えないといけないから。
「早く迎えに行かないと、ハニちゃんが誰かに捕られてしまうわ。昨日ハニちゃんの鞄を届けてくれた・・・・背の高い・・・看護学科の男の子ね、なんだかハニちゃんの事を好きじゃないのかなって思ってるの。」
「背の高い?」
ハン・ギョルだろう。
大丈夫だとはっきり言えるが、ハニはオレと違って誰にでも笑顔を向けることが出来る。
アイツが誤解していることははっきりしているが、それを判らせるためにオレがすべきことは何なのか。
「部屋に行く。」
「ちょっと、お兄ちゃん・・・話しは終わっていないわよ。」
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