最後の雨 69
なんとなく朝からギョルが不機嫌なことに、ミンジュ達は気になっていた。
「ちょっとちょっとぉ~、ランチぐらい楽しく食べないと。」
「そうよ、ハニも楽しそうにしないと。」
「私は別に・・・・・楽しいよ。特に今日のBランチのハンバーグは、スンジョ君が大好きなんだよ。」
「は・・はは・・・・ハニの物差しは全てペク・スンジョなんだ。」
ヘウンはチラッと不機嫌そうなギョルの様子を伺った。
「何だよ。学食の一番人気はAランチの酢豚だ。」
食券を持ったギョルはハニたちを追い越して、Aランチの注文口に食券を置いた。
「スンジョ君は酢豚が嫌いだから、私も酢豚は食べたくても絶対に食べないの。」
ハニの言った言葉にミンジュ達は、一瞬顔色を変えた。
ギョルの機嫌の悪い理由をハニ以外の三人は知っているだけに、たかが酢豚をハニが食べない理由だとはいえ、これをきっかけにややこしいことになるような気がしていた。
「残念だな、ハニ。」
「?」
「Bランチのハンバーグは売り切れだ。」
券売機を見れば、売り切れの赤いボタンがしっかりと点灯していた。
「さっきまで緑だったのに・・・・・・」
「ゴメンね・・・・私が最後だったの・・・ハニに譲ろうか?」
申し訳なさそうに、食券を出すヒスンにハニは大丈夫だと言って、Aランチのボタンを押した。
「旦那に合せて、自分が好きな物を我慢することも無いだろう。くだらない・・・・」
確かにギョルの言うとおり。
酢豚なんてスンジョの家に行くまではよく好きで食べていた。
スンジョ君が嫌いでも、私が合わせる必要もないし、スンジョ君も自分に合わせろとは言ったことも無いし言わない。
高校の時の給食で、スンジョが酢豚は嫌いだと知ってからは一度も食べていなかった。
「美味しい・・・・」
思わずハニが口から出た言葉に、食べている手を止めて四人は顔を上げた。
「ハニは酢豚が好きなの?」
「大好きだけど、スンジョ君が嫌いだから、もう何年も食べなかったの。夕食を食べない時はウンジョ君が酢豚が食べたいと言うと、中華屋さんに行って食べていたけど、私はスンジョ君の嫌いな食べ物は食べなかったの。」
「たかが食べ物で、旦那にそこまで気を使うか?」
「ギョル!!」
「お前がそこまで気を使うから、アイツはお前を軽く見てるんだよ。」
「見てないよ・・・・スンジョ君は、私に食べたかったら食べていいよといつも言っていたから。私の気持ちで食べなかっただけ。」
バンと大きな音を立てて、テーブルを叩いてギョルは立ち上がった。
「来いよ!」
向かい側に座っているハニの手を掴み、大きな音を立てたことで、一斉に学食の中にいる人たちの注目を浴びた。
「どこに?」
「いいから来いよ!」
有無言わせずギョルはハニの手をギュッと掴み、強く引っ張りながら学食を出て行った。
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