最後の雨 74
「ジュング・・・・・・」
「おぉ~ハニや~」
開店前のギドンの店に入ると、ジュングが店内の掃除をしていた。
そのジュングの声が発せられたと同時に、クリスがニコニコと笑顔で厨房から出て来た。
「良かったネ・・・いい顔してるワ・・・ほらほらジュング、あんたは店の準備しないと・・・・」
クリスに腕を引っ張られ厨房に入ろうとした時、カランカランと音がしてスンジョが入って来た。
「ジュング・・・・・」
「夫婦そろって、いい顔しとるわ・・・ハニをもう苦しめるんじゃないぞ。」
「ああ・・・・ありがとう。」
「何かお前に礼を言われると、気持ち悪いわぁ・・・・シェフを呼んで来るから。」
スンジョに礼を言われて顔を赤くして、ジュングは今日店で使うククスを取りに乾燥室へ入って行った。
「スンジョ君、ジュングと何かあったの?」
「ハニがギョルに連れて行かれた時に、オレを呼びに来てくれたのがジュングなんだ。」
そうなんだ。
ジュングがそんなことをしてくれていたんだ・・・・・ありがとう。
エプロンで手を拭きながら店に出てきたギドンは、スンジョとハニの何か吹っ切れた表情を見て安心したような顔になった。
「仕込みの切りが付けれなくて、待たせて悪かったな・・・・二階のハニの部屋に行くか?」
開店前で客はいないが、さすがに従業員が仕込みをしているところで個人的なことを話すのはよくないと思い、別居している間ハニが使っている部屋に二人を連れて行った。
「ハニや・・・散らかってないだろうな。」
「大丈夫よ・・・私は綺麗好きだか・・・・・」
ドアを開けるとハニの部屋は散らかってはいないが、洗濯物が少し干されていた。
「キャー!見ないでスンジョ君!」
ハニは急いで干してある洗濯物を外した。
ペク家の二人の寝室よりもかなり狭い部屋に大人が三人。
窓を開けないと、息苦しく感じる。
ギドンはスンジョの話を待っていた。
「お義父さん・・・・ハニとまた一緒に住まわせてください。」
「勉強の方は・・・大丈夫か?」
「はい、勉強を理由にして別居をしましたが、ハニが横にいてくれるから目標を決める事も出来たし、その目標に向かって努力をするという事もするようになりました。自分が自分らしくいられるのは、ハニがいつもオレを見ていてくれるから。今回は自分の気持ちの表し方に、子供みたいに戸惑っていた愚かな自分の所為で、ハニを苦しませてしまいました。どんなに勉強をしてもハニがいないと、進んで行きません。夜ひとりで考えてもなかなか勇気を出して言う事も、ハニがいないと思い浮かびませんが、出来れば今日からまたハニと一緒に暮らさせてください。」
人に頭どころか頼み込むことなど、今までは一度もなかった。
ギドンは、頭を下げてハニを迎えに来たスンジョに静かに話した。
「そんな風に頭を下げなくてもいい。二人に何があったのかはワシは知らん。いくら娘でも結婚したのなら、親が娘夫婦の事に口出せない。スンジョ君、君が本当にハニといたいと思うのなら、今度こそハニをもう一度君の妻として連れ帰ってもいい。」
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