最後の雨 75
ニコニコと笑っているギドンには、別居したら最悪な状況になるとは思わなかった。
ただ、スンジョが自分にとってのハニの存在がどんなものなのかを知ってほしかった。
愛情はあっても、それをうまく表せないでもがいているスンジョの目の前に、能天気に何も缶得ないで、何とかなると言った顔をしているハニをミレが、頭で考えて分析をするスンジョには、考えが出来るその時間が必要だったのだ。
「ただし、条件がある。」
「パパ・・・・」
「条件ですか?」
ハニは部屋に聞こえるくらいに大きな音を立てて、唾を<ゴクン>と飲み込んだ。
「必ず医者になるんだぞ。」
たったそれだけのことが、スンジョには嬉しかった 。
短い別居期間に、勉強したことは医学部の勉強だけではない。
何かを犠牲にする必要があった。
夫婦がほんの少しの時間離れていた事で、ただ机に向かい勉強するだけが勉強ではないことを知った 。
「はい、必ず医者になります。」
「あとは・・・・・・・・ハニを不安にさせたり泣かせたりしないでやって欲しい。ワシハニの笑った顔が好きなんだ。頼んだよ。」
そう言うとギドンは部屋を二人だけにして、静かに出て行った。
「今日持って行けるだけの荷物を持って行こう。今度の日曜日に来て残りの荷物を運べばいい。」
ハニはスンジョの言葉に少し恥ずかしそうに頷いた。
「パパ・・・行くね。」
「ああ・・パパは、暫く楽は店の方が忙しいから、日を改めてスチャンに挨拶に行くから。スンジョ君、ハニを頼むよ。」
「はい、もう二度とこんな思いをさせませんから、お義父さんは安心してください。」
ギドンは判っていた。
苦しんで出口を探すためにもがいていたスンジョが、自分で見つけた方法は彼にとって難しい事だが、ハニには簡単に出来る。
二人がお互いが必要だと思っているから、この先も二人で補い合って行くことが出来る。
子供が一つづつ悩みを解決して大人になって行くのなら、親も子供が悩んで成長していく時に、ほんの少しだけ手助けをしながら、親も一緒に成長していくと。
人生は、毎日が勉強と成長の毎日。
親になっても覚えなければいけない事は出て来るが、靄が晴れたスンジョなら、ハニが迷っている時に導いてくれると信じていた。
ハニ、お前のいけないところは一人で勝手に悩んで傷つく事だ。
スンジョ君はお前が思っている以上に、お前を必要としている。
ただ、それが上手く表せないだけで、決してお前を嫌いになったりしてはいないよ。
ちゃんと、二人で話し合えば解決することばかりだ。
世間でいえば早い結婚だったけど、スンジョ君やハニにとったら成長していくには二人が早く結婚した方がいいと思うよ。
二人で一緒に迷って悩んで、その壁を乗り越えなさい。
スンジョ君は本当にいい男だよ。
パパが勝手に決めて別居をさせたが、自分の不足していることに早くに気が付いて迎えに来てくれたから。
ギドンは嬉しそうな顔をして車に乗っている娘の顔を見て、一つまた親から離れていくことを、嬉しさと寂しさを混ざったような不思議な感覚で見守っていた。
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