最後の雨 76

フロントガラスに打ち付ける雨は次第に強くなり、ワイパーが追い付かないくらいだ。

「お昼頃はパラパラと降っていただけなのにね。」

「台風が近いから大雨になると言っていたぞ。」

スンジョは掛けていたCDを止めて、ラジオに切り替えた。

____台風はさらに勢力を大きくして、日本海を北西に進んでいます。今夜未明には朝鮮半島に上陸するもよう・・・・・・・速報です。一部の道路が降った雨で冠水している所があります・・・・・・・

「スンジョ君・・・・・大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないな。この渋滞はもしかしたら、この先でニュースに言ったように冠水しているかもしれない。」

のろのろとさっきまで動いていた車は完全に停まった。

「怖い・・・・・・」

ハニが胸の前で腕を交差してブルッと震えた。

狭い車の中で、雨の音が大きくてニュースの声は所々しか聞こえない。

時々雷が鳴ると、ハニはそのたびに耳を押さえて震えていた。

このまま車に乗っていても、渋滞が緩和される頃には夜中過ぎになってしまう。

「ハニ、家に帰れなくてもいいか?」

「えっ!スンジョ君と死ぬの?」

「バーカ、雷と雨で死ねるか。この近くにホテルがあるはずだ。今から電話して空き具合を確認してそこに泊まるぞ。」

数日前に泊まったホテルの電話番号をスンジョは記憶していた。

「すみません、部屋は空いてますか?・・・・・はい・・・妻と二人です。シングルしか空いてないですか・・・・・・その部屋でいいので・・・・・お願いします。そうですね・・・今から15分くらいで行けると思います・・・・はい・・お願いします。」

「スンジョ君?」

「ダブルは空いていなかった。シングルしかないけど、取り敢えず車の中で過ごすよりはましだろう。」

少し車が動いて、スンジョは脇道に入り電話を掛けたホテルに向かった。

ホテルのフロントは、この雨と台風で帰宅できなくなった人がチェックインするために並んでいた。

「このホテル、スンジョ君よく使うの?」

「いや、今日で2回目だ。誤解しないように先に言っておくよ、ハニとこの間泊まった時に電話番号を覚えた。」

あと数分遅ければ、このホテルに部屋を取ることが出来なかった。

チェックインを済ませて、部屋に上がるエレベーターに乗り込むと、ほぼ各階ごとに停まり、オレとハニは上層階の部屋だから奥の方にいたが、人の視線はこの時間にカップルでいるオレ達を見て誤解をしている事に気が付いた。

どう見てもオレ達は、まだ年齢も若いし夫婦に見えないからな。

「降りるぞ。」

「静かだね。」

「この階はシングルばかりだからな。一人でしゃべるのはハニ位だから。」

プスッとすねるハニも、さすがこの静かな廊下で大きな声で反論することはしなかった。

ひとつのドアの前で止まり、鍵を開けた部屋の中に入るとシングルなだけに椅子が一つとテーブルが一つと狭いベッドが一つの部屋だった。

「これだと一人しか眠れないよ。」

「ハニがベッド使えよ。オレは椅子で眠るから。」

「あの時と違うね。」

「あの時?」

「うん・・・・・バレンタインの雨の時、一人暮らしをしていたスンジョ君の部屋に泊まった時・・・・・「お前は床で寝ろ」って言ったよね。」

あの頃はまだ考えが年齢の割に子供っぽくて、好きなハニをからかっていたバカなオレだ。

「覚えているよ、ほら・・・・先にシャワーを浴びて来いよ。オレはお袋に電話をするから。」

あの雨の時から1年半しか経っていないが、あの時に比べたら大人になったと思うよ。

今は自分の口で沢山の人がいる前で言えるから。

「ペク・スンジョはハニを愛しています」

と・・・・・・・

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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