最後の雨 78
温かい・・・・今日は身体だけでなく心も温かくて心地よい
甘くて柔らかなこの感触
絹糸が鼻先を擽る・・・・・・
甘い香りは、疲れて凝り固まった身体を解き解して(ときほぐして)くれるようだ
スンジョは静かに目を開けて、幸せな顔で微笑んだ。
「おはよう。」
「おはよう、スンジョ君。」
狭いベッドで眠った割に、身体の疲れも取れて清々しい気分だ。
「雨・・・・・・まだ止んでないね。」
「昼ごろには止むだろう。チェックアウトにはまだ時間がある、もう少し休んでいよう。」
ハニの丸い鼻が、スンジョの肌蹴た(はだけた)バスローブの胸元に触れると、クスッと笑った。
「雨って・・・・・私達と縁があるのかな?」
「みたいだな。」
「雨が降るとお前は何を思うんだ?」
上目づかいでスンジョを見上げると、スンジョはハニの顔をじっと見ていた。
その視線が照れ臭くて、思わずハニは目を逸らせるが、声は震えていた。
「えっとね・・・・・バレンタインの雨の日でしょ?それから・・・・・雨の中の・・・・Kiss・・・・・」
「お前は、そうなんだ。」
「スンジョ君は違うの?」
ああ・・・・・いいなぁ・・・このハニの話し方。
自分の考えはちゃんとあって、オレの考えも聞いてくれる。
「オレはハニの涙・・・・それも、オレがハニを苦しめて泣かせた時の涙。」
「でも、そんなのは今回の事だけだよ。」
「違う・・・・・もう一つある。」
思い出したくないあの時。
ハニもきっとそれを口に出したくないし聞きたくないだろう。
「もう一つ?」
「ハニが流した涙を、オレはどうしたら止められるのかを、いつも考えていた。オレがハニを泣かせて、その涙でいつも気が付くんだ<オレは何をしているんだ、ハニに冷たくしてそれで自分を守っているのか。結婚の約束は嘘だったのか>って・・・・・」
「そんな風に見ていてくれたんだ・・・・知らなかった。」
ハニのそんな言葉を聞いているのか聞いていないのか、少し離れたハニの身体をギュッと抱きしめた。
「もう離さないから・・・・ハニの涙の雨はもうこれで最後にするから。」
「スンジョ君・・・・・・・離れないから・・・ずっと・・・」
そんな話をしているうちに、外で降っていた雨もスンジョが言ったように知らないうちに上がっていた。
0コメント