最後の雨 80
温かい
昨日まで使っていたベッドと同じなのに、今朝は特別温かく感じる。
腕に掛る重みが心地よく、その腕と反対の方の腕に力を入れて引き寄せてもっと自分の近くに感じたい。
「おはよう。」
「起きたのか?」
「ううん、ちょっと前に目が覚めたの、温かくてなんだかホンワカして自然と目が覚めちゃった。」
「いつも起きないお前にしたら、雪でも降りそうなくらいに有り得ないな。」
「うっ・・・・・・・酷いと言い切れない所が悔しいけど、本当だと自分でも思っちゃう。」
クスクスと笑う二人の声は、朝早いこの時間に清々しい気持ちと共に、もう二度と同じ間違いをしないとお互いに誓っているようだ。
「キスしたい。」
「しようか?」
ここ数ヶ月、正確にはお互いの気持ちが離れていた数ヶ月はキスさえもした記憶がなかった。
お互いの体温だけじゃなく、スンジョのハニへの思いに、ハニのスンジョへの信頼が通じ合っているからかとても温かかった。
ダイニングに二人そろって降りて行けば、グミもスチャンも弟のウンジョも、二人が幸せそうにしていると同じように幸せそうに笑って返していた。
「良かったね、お兄ちゃんとハニ姉さん。」
「ウンジョ君がバカハニって言わなかった・・・・」
「まっ・・・・お兄ちゃんと仲が良くなった記念に、特別に言ってやったよ。」
二人そろっている姿が、それが当然だと言うウンジョも、まだ幼いと言ってもそれが一番いいことだと判っていた。
「雨降って地が固まる、と言う事もある。二人の事はパパにもママにもギドンにも、口を挟めないことがあるから、この雨が二人にとっての最後の雨となるように、お互いを信じて行きなさい。」
「親父・・・・・・・」
「お父さん・・・・」
普段からあまり二人の事に口を挟まないスチャンも、こんな風にしている息子たちを見ることが出来て、 本当によかったと思った。
「可愛い赤ちゃんが、我が家に訪れるのも早いかもね。」
「またお袋はそれを言うのか?」
「そうよぉ~、だってあなた達はラブラブの新婚なんだもの、いつ赤ちゃんが出来るかわからないでしょ?」
結婚したら何も言わなくなると思っていたグミの言葉は、今度は孫が欲しいと言う言葉に変わっていた。
それは大体「可愛いハニちゃんによく似た女の子」。
スンジョも、ハニに似た娘を欲しいとは思っているが、まだ学生であるという事と二人だけの時間がもう少し欲しいと思っている。
看護学科の教室付近で、スンジョと別れて前に進もうと思っても、歩き出さないハニに、スンジョはポンと元気づける様に肩を叩いた。
「どうした?」
「うん・・・・昨日のことがあるから行きにくい・・・・・・」
「オレも一緒に行こうか?」
スンジョの掛けた言葉で、勇気が湧いたハニは、振り返っていつもの笑顔に戻った。
「ありがとう、ここからは私がやらないといけないことだから大丈夫。」
「そうか・・・・」
「行って来ます。帰りは一緒に帰れるよね。」
「ああ・・・これからはずっとハニと一緒だ。行って来い。」
手を振って二人は別れると、ハニは昨日のことを心配している看護学科の人たちに何か話しながら教室の中に入って行った。
その姿を最後まで見ていたスンジョは、安心したように自分も医学部の教室に向かった。
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