スンジョの戸惑い 16
洗面台に見慣れぬ歯ブラシに、いかにも女の物だと判る化粧品。
ドアを開けた瞬間に、女の子がいた痕跡を伺うことが出来る化粧品の香料が洗面所に漂っていた。
ハニが先に洗面台を使ったのか、多分いつも持ち歩くのだろうまるでぬいぐるみかと間違えてしまいそうな化粧ポーチが置いてあった。
オレは多分大丈夫だろうとは思ったのが間違いだった。
あたり前と言えばあたり前だけど、いつも通りの行動をした。
便座に座りホッとした時にウンジョとは違うバタバタと走って近づいて来る足音が聞こえて来た。
≪マズイ≫そう思った瞬間、バスルームのドアが言葉を発するよりも早く開いた。
「おい!ノックぐらいしろよ。」
「えっ?きゃあーごめんなさーい。」
ハニは真っ赤な顔をして、ドアをパタンと大きな音を立てて閉め、一階に行く足音ともにお袋がハニに、オレに何かされたのかと聞いているのが聞こえた。
気まずい朝食。
オレの顔をチラチラと見ては、目が合うと顔を赤らめる。
恥ずかしいのはお前じゃなくて、こっちだろう。
「ごちそうさま。」
オレはこの場から早く抜け出したくて、急いで食べ終えた。
そうでもしないと、デザートが出る前にお袋が余計な事を言いそうで、そうなったらいつまでも学校に行けそうにもならない。
「お兄ちゃん、もういいの?」
「食欲が無いから。」
鞄を持って立ち上がると、お袋がまたオレの自由を奪うかのように呼び止めた。
「ハニちゃんも一緒に連れて行ってあげて。慣れないところに来て道も良くわからないから一緒に・・・・・ね?」
ハニはオレと一緒に学校に行こうと、飲み込むように急いで朝食を食べ終えた。
気になる女の子ではあったが、一緒に家を出たのを誰かに見られたくなくて、先に玄関を出ると、小走りにハニが付いてくる。
追いかけられている足音を聞いていると、何だかその感覚が結構楽しくてゆっくり歩いたり少し早めに歩いたり・・・・・・
いつも一人で登校をしていたから、こんな風に誰かに会わせて歩いたことも無かった。
そのたびにハニが<待ってよ>と、そう言いながらオレに必死に着いて来ていた。
オレがいきなり立ち止まり、クルッと振り返るとハニがオレの身体とぶつかった。
「急に立ち止まらないでよ。」
オレは周りを気にして誰もいないことを確認してハニに言った。
「このあたりからパランの学生が増え始めるけど、オレと同居していると言うんじゃないぞ。」
なぜかハニと会ってから、人生が変わるような事が起きそうな気がした。
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